189回 本会議(刑事訴訟法改正案 適切な運用について等)

2015-08-21

○矢倉克夫君
公明党の矢倉克夫です。
会派を代表し、ただいま議題となりました刑事訴訟法等の一部を改正する法律案につき、上川法務大臣並びに山谷国家公安委員長に質問いたします。
十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれとは刑事裁判における原則ですが、人権保障と真実発見の双方を目的とする刑事訴訟法の制度設計に当たり、私たち立法府に課された使命とは、無実の罪を根絶しつつ真実を明らかにし秩序を保つことであり、まさに十人の真犯人を逃すことなく一人の無辜を決して罰しない、この点にあると考えております。
本改正案はこの難しい課題に向けた一歩である、このように評価をいたします。その上で、大事なことは、いかに適切な運用を図るかです。
以下、お尋ねいたします。
今回の法改正案に至る出発点は、従来の捜査が過度に取調べに依存し、裁判においても供述調書、すなわち犯罪捜査の取調べ過程における被疑者等の供述を記録した文書が結果的に重視される傾向にあった点を正すことにあると理解いたします。
密室での取調べを経て作られた供述調書は、違法な取調べが行われた場合はもちろん、いかに適正な取調べを経た場合であっても、その内容が真実か否かは慎重な対応を要します。裁判における供述調書への過度な依存を改めることは、真実は公開の公判廷で明らかにすべきものであるとの原則につながり、被疑者、被告人の裁判を受ける権利の確保にもつながります。
法務大臣より、取調べに依存した従来の刑事司法の在り方を変える今回の改正の狙いについて御答弁いただきたいと思います。
今回の改正案の最大のテーマは、捜査の可視化、見える化であると理解いたしております。
録音、録画による取調べの可視化がもたらす効果は主に二つ。まず、見られているという緊張感が捜査の適正化につながる点、そしてもう一つは、供述調書の任意性の立証が容易となる点、つまり、可視化された状態で取得された供述調書であれば被疑者、被告人を威圧し供述させたものではないだろうとの推測が働くため、供述調書の内容である供述は任意になされたものであることの立証が容易となる点であります。
しかし、仮に可視化によりこの任意性の立証が容易となったことをよしとして供述調書がより偏重されるようなこととなれば本末転倒です。可視化の趣旨は、どこまでも捜査の適正化であり、供述調書の任意性を補完する手段ではないとの原則に立ち条文解釈や運用をなすべきであると考えますが、法務大臣の御見解をいただきたいと思います。
改正案は、可視化されるべき対象事件を裁判員対象事件と検察独自捜査事件といたします。ただ、法制審による平成二十六年九月十八日付け答申では、その附帯事項において、法制化の対象とならない事件についても、実務上の運用において、可能な限り、幅広い範囲で録音、録画がなされることを強く期待する旨の記載がなされており、事実、検察、警察双方において、運用上、裁判員対象事件と検察独自捜査事件を超える範囲の事件について取調べの録音、録画をする努力がなされております。
今回の法改正案提出を契機として、更なる可視化の拡大について、法務大臣の御見解をいただきたいと思います。
供述調書偏重は是正すべきものである一方、被疑者、被告人の供述から共犯者や首謀者の存在その他が明らかとなる事実は否定し得ません。従来、取調べが時に過酷なものとなった要因として、共犯者や首謀者等の存在に関する供述を得る手段が取調べによる説得しかなかったという事情もございます。
改正案が導入を目指す合意制度は、いわゆる司法取引類似の制度として、捜査全体における取調べの比重を減らす意味で評価できます。他方、既に衆議院でも議論されているとおり、合意制度は、自らの刑事責任を逃れるため他人を巻き込む、いわゆる引っ張り込みの危険がございます。
そこで、二点お尋ねいたします。
法制審や衆議院での議論にもありましたとおり、合意制度における合意に基づく証言の信用性は低いものであり、法曹三者のうち、とりわけ検察は、この供述を立証に用いるに当たり十分な裏付け証拠を確保する必要があります。検察が、既に収集されている証拠に沿う形で合意に基づく供述をつくり上げ、その上で既に収集されていた当該証拠を裏付け証拠と提出することのないよう、裏付け証拠の信用性に関しても厳格な運用を求めるべきと考えますが、この点に関して法務大臣の御所見を伺います。
巻き込みの危険を回避するためには、合意が適正になされたか、被疑者、被告人が無関係の第三者を巻き込んでいないか、検察側から不当な誘導等はなかったのか等、合意の形成過程を巻き込まれた可能性のある他人の刑事事件の公判において検証する必要があります。そのために、合意の経緯を示す記録を保管することは重要であり、保管期間を含め適切にルール化する必要がございます。この点に関し、法務大臣の御所見を伺います。
次に、通信傍受について、今回、いわゆる振り込め詐欺などによる深刻で組織的な財産犯罪や、暴力団やテロ組織による人の生命、身体への重大な危険を及ぼすであろう組織犯罪、あるいは通信技術の発達とともに被害が深刻かつ回復し難いほど拡大しつつある児童ポルノを念頭に通信傍受の対象事件を拡大したことは、犯罪の重大性や傍受の必要性を勘案し、妥当と考えます。
他方、濫用によるプライバシーへの過度な侵害を避けるべきことは当然であり、特に、従来認められていた立会人による立会いを、事業者の負担や傍受への事実上の障害を勘案し、なくした点がいかなる影響を及ぼすか、慎重に議論されるべきものであります。従来の立会人の果たした役割を今回の改正案は制度的にいかに代替、担保しているか、法務大臣より御答弁いただきたいと思います。
また、立会人がその場に存在したことが捜査側に心理的プレッシャーを与え、濫用を抑止していたという御意見もあります。立会いがいない状況で、果たして通信傍受が適切になされたかを事後的に検証することを含め、濫用を防止する仕組みが重要となりますが、その運用を含む在り方について、制度を主に運用する警察のお立場から、山谷国家公安委員長より御答弁をいただければと思います。
法案が、被害者を始めとする証人の負担軽減や安全確保のため、ビデオリンク方式による証人尋問の拡充や証人に関する情報の保護を規定した点を評価いたします。他方、とりわけ犯罪被害者保護については、このような裁判制度における負担軽減という側面のみでなく、精神的また経済的支援が重要であることは言うまでもありません。
犯罪被害者保護は全省的に取り組むべき問題でありますが、内閣の一員として法務大臣は、この犯罪被害者保護に向け、今後どのように取り組まれるのか、決意をお尋ねしたいと思います。
冒頭申し上げましたとおり、我々立法府に課された使命は、無実の罪を根絶しつつ真実を明らかにし秩序を保つことであります。その意味で、今回の法改正は重要な一歩でありますが、まだ出発点です。委員会における充実した審議を通じ、適切な運用を担保することにより、人権保障と真実発見を共に満たす刑事司法実現に寄与することをお誓い申し上げまして、私の質問といたします。
ありがとうございました。