軽減税率の議論を振り返り(その2)

2015-12-24

矢倉かつおです。

前回に引き続き軽減税率についてです。

軽減税率導入について三つほど、誤解が生じていると申し上げました。今回は、その一つ目、「軽減税率は、低所得者対策として不十分だ」というものです。

このご意見はさらに二つほどに分かれると思います。

一つは、「痛税感の緩和ということであれば、低所得者だけに限定をし、お金を配るほうがよっぽど効率的だ」といったご意見です。例えば、給付付き税額控除といわれる制度です。

特に、経済学者の方に多いようです。確かに一見、論理的にも聞こえます。

しかし、お金を配る、といっても、社会保障と税の共通番号制度(いわゆる「マイナンバー制度」)が定着していない現実では、配るべき低所得者の方はどなたなのか(正確には、給与など「所得」だけでなく貯金など「資産」も含めて)、政府が把握することは困難です。

そのため、「自分には受給資格がある」と考える方自らに、お手間をとらせ申請していただく必要があります。しかし、ここで問題となるのが、いわゆる申請漏れです。例えば、消費税8%時に政府は低所得者対策として「簡素な給付金」という制度を導入しましたが、徹底した周知活動にも関わらず、多くの自治体では、対象者の約3割から4割が申請をされず、せっかくの給付金が届かずじまいでした。

つまり、この方式では、本当に支援が必要な方全てに効果が行き渡らないのです。一見、論理的に聞こえる政策でも、人間の行動など不確実な要素も加味し考えると、必ずしも効果的でないことがあります。

そもそも、後日、差額を返してもらったとしても、一度、税をとられてしまった以上、「税をとられた」という痛税感は残ってしまいます。その意味で、問題の解決になりません。

税をとられることに対する人の痛みをどう軽減するか、その観点から考えたとき、「対象品目の買い物のたびに例外なく」「即時に」「申請等の手間もなく」効果のおよぶ軽減税率は、優れた政策であると言えます。

「低所得者対策として不十分だ」との主張として、よく聞かれるもう一つの声は、「軽減税率は、高所得者優遇だ」というものです。

これは、所得があがればあがるほど、消費額も大きくなり、結果、軽減額も大きくなることを根拠としています。

例えば、年収が1500万円以上の世帯では軽減税率による負担軽減額は年で1万9千円を上まわるのに対し、年収200万円未満ではその額が年1万円を下回る(9100円ほど)と試算されています。「高所得者のほうが、1万円近くも得しているじゃないか」というのです。

しかし、軽減額が大きいということは、払っている税額も多いということです。軽減額の多さだけを切り取って「優遇かどうか」と議論をすることに、どれだけ意味があるのかと感じます。

そもそも、痛税感の緩和という点から考えたとき、重視すべきは、「それぞれの日々の生活で感じられる負担感がどれだけ軽減されるか」という点であるべきです。

この点から参考になるのは、給料から税金などを引いた額(「可処分所得」といいます)のうち軽減額が占める割合はどの程度か、というデータです。年収300万円世帯の可処分所得に占める軽減額の割合は、年収1000万円世帯のそれに比べ約1.5倍です。つまり、低所得者になればなるほど、家計に占める軽減額の割合は高くなり、軽減税率により家計が助かる割合は増えるということです。

「高所得者優遇だ」とのご意見の背景には、格差是正のために、高所得者の負担感が少ない分を低所得者に、という考えがあるのかもしれません。大事な視点です。

しかし、格差対策は軽減税率だけでなし得るものでは到底なく、税制に限らず国の全ての政策を動員してなすべきことです。軽減税率はどこまでも、所得の低い方を中心とした全ての方の痛税感を軽減する、その目的に特化して制度設計すべきと考えます。

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