190回 法務委員会(刑事訴訟法改正案参考人質疑)

2016-04-26

○矢倉克夫君

矢倉克夫です。
四人の参考人の先生方、貴重なお話、本当にありがとうございます。私からは、まず渕野参考人に二問お答えを、その後、西村参考人にちょっとまずお伺いもしたいと思います。
まず一点目ですが、通信傍受、私、やはりこのようなことを考えざるを得ないような理由というのは、当然ですけれども、話のあった組織犯罪が非常に増えている、とりわけ上層部に対しての立証というのが難しいという現実はあるという部分はあると思います。渕野先生、先ほども、今回の対象犯罪について罪名という観点から御意見をいただいたわけであります。今回、御意見としては、新しく入った罪名のものには軽微な犯罪が多いからというようなこともあったと思うんですが、他方で、おれおれ詐欺であったり児童ポルノであったり、非常に組織的な犯罪となり得る罪名もあると。そのような事案について、じゃ、現実にどのように立証していけばいいというふうにお考えであるのか。これがまず一点目であります。
もう一点目は、やっぱりプライバシーとの関係、個々のプライバシーの侵害というところ、これはもう大変に重視をしなければいけない問題であります。他方で、それの担保として令状主義というのがある。今回新しく加わった組織性の要件も含めて、令状でしっかりと記載していって裁判官の目で見るというところで適正を担保するというところでありますが、先生の御意見は、その令状主義自体が機能をしていないと。先ほども無関係なものも入るというところもあったわけですけれども、じゃ、例えばその令状の特定の在り方にしても、現実に、なかなかこのときに関係する通信を得るとかそういうことはやっぱり分からないから、ある程度概括にしなければいけない。じゃ、どの程度の令状の在り方であれば機能しているというふうにお考えであるのかをちょっと御意見をいただいて、それを受けて西村参考人から御所見をいただければと思います。

○参考人(渕野貴生君)

まず、組織的犯罪について上層部までたどり着くための立証をどうするかということですけれども、これは、二つの観点からお答えをしたいと思います。
一つは、やはり現在、捜査機関が現在の刑事訴訟法の下で与えられている捜査権限を本当に的確に、そして最大限に活用したときに、本当にこういった組織犯罪について解明できないというような事実があるのかどうかということをまずはしっかりと検証する必要があるかと思います。
現在、捜査機関は、伝統的な捜索、差押えだけではなくて、例えばサーバーに対する差押えというような新しい手法、これは二〇一一年だったと思いますけれども、の刑事訴訟法改正で新たに認められた、サーバーからデータを送ってもらってそれを差し押さえるというような、そういった手法も与えられておりますので、こういった手法を駆使して本当に摘発できないのかということをやはり一件一件きちんと検証していく必要があるであろうというふうに思います。
それから、令状主義との関係で、どこまで令状に書き込めば特定したことになるのかということですが、これは、率直に申しますと、特定をすることは不可能であるというふうに考えます。どうしても会話というのは、まだ発生していないものに対してそういう会話が行われるかどうかの判断を強いるものでありますので、令状だけで特定性を完全にカバーするということは非常に極めて難しいというふうに思います。であるからこそ、そこを、規範的な令状の厳格な要件だけでは絞り切れないというところを立会い等の物理的な障害を設けて濫用にわたらないようにするという、これはいささか変則的なやり方ではあるんですけれども、そうしなければ結局適切なコントロールができないという通信傍受の特性を踏まえて議論をする必要があるというふうに考えます。

○矢倉克夫君

じゃ、今の御意見を受けて、西村参考人、御所見をいただければと思います。

○参考人(西村幸三君)

私は、二年前にもやはり訪米調査をいたしまして、通信傍受によって組織犯罪がどのように上層部まで摘発される流れになるのかということをヒアリングしてまいりました。
アメリカの捜査機関が現在非常に重視しているのは、いかに組織犯罪の上層部の犯罪収益を剥奪してしまうか、当然、懲役刑だけではなくて、いかに剥奪するかということを重視していると。それには、実行犯段階と上層部あるいはその周辺者の人のつながりをどれだけ解明するかが決定的に重要であるというふうに捜査官はほぼ口をそろえて言われております。
その人と人とのつながりを、じゃ、通信傍受だけで実現できるかというと、実はそうではありません。でも、通信傍受は決定的に重要な役割を果たしています。
例えば、通信傍受だけではなくて、アジトを突き止めるGPS傍受なども併せて、あるいは張り込みですね、物理的な張り込み、これによってアジトを突き止める。そうすると、そこに出入りする者、そのアジトの賃貸借を契約している者、車で乗り付ける者、じゃ、その車の所有者は誰なのか、その車に乗った者は誰なのか、こういうことが次第次第に解明されていきます。振り込め詐欺のアジトを突き止めてほしいと私がさんざん警察に言っても、できないんですという、もうパンクしてできないんですというのが十年前の話でした。
これは一つの本当に例えなんですけれども、通信傍受が万能ではありません。でも、大変重要な一つの捜査手段としてアメリカの捜査官は、もう伝統的な捜査手法として、張り込みなどの一つとしてこれは必要なんだと、組織犯罪を本当に解明して上層部の逃げ得をなくすのにはやはり必要な捜査手法であると当然のように言われていたのが大変印象的でした。
以上です。

○矢倉克夫君

ありがとうございます。
西村参考人にもう一点、令状の関係、もし何かございましたら御所見をいただければ。

○参考人(西村幸三君)

通信傍受で拡大されました罪状、今回の通信傍受法において拡大されました罰条につきましては、あらかじめ定められた役割分担に基づく数人の共謀という規定になっております。これは大変厳格な定めだと考えます。もちろん、団体が何なのかとか団体が継続しているのかという要件までは、これは入っていませんね。
ただ、通信を利用して犯罪が遂行されているその団体を特定せよといっても、それが本当にその団体なのかが分からない中で通信傍受を始めないと、現に行われている振り込め詐欺、恐喝、こういったものに取りかかることすら許さないと。団体を証明しなさい、一体どういう団体で、それがどういう継続性を持つのか疎明しないと摘発してはいけませんと言っている間に大量の振り込め詐欺が迅速に遂行されます。迅速な着手、これをしていただかないといけないわけです。
そういう意味では、余りに過剰な要求をしたら捜査が当然潰れてしまう、できなくなってしまう。だから、振り込め詐欺の被害者も、当然、適用罰条どころか、余り厳しくしたら結局救済されない。立会人の確保をしないといけなくて、日程調整に数週間を要するこれまでの現状を放置しては、結局、やり得、逃げ得を許すということになるわけです。
令状の要件というのは、こういう立法事実をよく考えて決めていただかないといけないというふうに私は考えております。

○矢倉克夫君

ありがとうございます。渕野参考人もありがとうございます。
川出参考人にちょっとお伺いしたいんですけど、今の渕野参考人の御意見の中で、立会人の位置付けについて、特定の要件との関係で微妙なバランスを取るための立会人の位置付けというような御意見があったわけですけど、現行法に基づいてこの立会人はどのような理論的な位置付けであるのか、今の渕野参考人の御意見について、御所見をいただければと思います。

○参考人(川出敏裕君)

立会人がいることで事実上の障害になって、本来的に特定が難しい通信傍受というものなので、それが、何というんですか、事実上抑制されているという御意見だったんですが、まず、例えば特定が十分にできていない、それで本来正当な理由のないような会話についてまで傍受されてしまうと、そういう前提で、ただ、その立会いがあることで事実上それが制約されるといっても、結局、それは無関係な通話が聞かれるという部分がなくなるわけではありませんから、その意味での総量規制というのは、私は、元々の出発点というのと必ずしも整合していないというふうに思います。
それともう一つは、意見の中で申し上げましたが、事実上障害があるということによって補充性が担保されているというのは、そもそも補充性の要件の解釈としてはおかしいだろうというふうに思いますので、そこは渕野先生と意見を異にするということになると思います。

○矢倉克夫君

最後、浜田参考人、いろんな法律を作る上で、やはり当然ですけど、捜査機関が信用できないから法律を作ってはいけないというわけにはこれはいかないとは思うんですね。
ただ、他方で、しっかりと法律を作って制度はしっかり確立しながら、捜査機関の濫用というのは、これはしっかりと確認しなければいけない、この両方でやっていかなければいけないと思うんですが、特に、そういう部分での今後の運用の在り方について、大変時間が短くて申し訳ありません、一言ちょっと御示唆をいただければと思います。

○参考人(浜田寿美男君)

法の人間じゃないのでかみ合う話なのかどうか分かりませんけれども、これまでの自白の問題に関して言いますと、任意性、信用性で判断するというところで、その部分をくぐり抜けた形で冤罪事件が頻繁に起こり、かつ、それが再審段階に至ってもなおかつ正されないままに至っている事件が相当あるというふうに思うんですね。
その意味では、任意性、信用性判断でチェックするという在り方が、これまでの在り方はある部分破綻をしているんじゃないかと私は思う。その点で可視化がなされるというのは非常に大事なことだと思うんですが、もう一つ、それに加えて、先ほどちょっと言ったことですけれども、捜査官は、無実の主張があったときに、それの裏付けをするということを、つまり消極証拠に対して誠実に対応するということを是非具体的な、こういう訴訟法という法律で規定できるかどうか分かりませんけれども、推定無罪という原則があるぐらいですから、無実の方向の主張に対する裏付けを、言わば一つの文化としてだけじゃなくて一定の規制として、その主張があったときにはそれを裏付けることをしなきゃいけないというようなことを組み込んでいただけたら随分変わるのになというふうなことを思っております。

○矢倉克夫君

丁寧にありがとうございました。

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