189回 北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会(参考人質疑 北朝鮮の権力構造等)

2015-04-27

○矢倉克夫君
公明党の矢倉克夫です。
参考人の皆様方、お忙しいところ大変に貴重な御意見をありがとうございます。
お話をお伺いして、少し前になるんですけれども、私、地元埼玉県で、埼玉の川口市の市役所で特定失踪者の皆様を含めた帰還について展示をされていた藤田進さんの弟さんの隆司さんにお会いをしたときのことを思い出しました。もう本当に時間がないんだということを切実にお訴えをいただいて、今、飯塚参考人を始め皆様のお話を聞いて、もう待ったなしなんだなということを改めて実感をした次第であります。
ちょっと質問に、時間もありますので入らせていただきたいと思うんですが、やはり具体的にどのように解決をしていくのか。一つのポイントは、金正恩第一書記がどのように考えていて、彼にどういう力があるのかというところをもう少しはっきり明確にしていかなければいけないところではあるかと思います。当初は、この拉致に関わりのなかった金正恩がしっかりと解決していくという意思を持てばというような期待もあったわけですが、なかなかそれが進展しないと。その理由が北朝鮮の内部に、どういうところにあるのかというところもまた知らせていただきたいというところで、少し内情についてお聞きしたいと思っております。
平井参考人にお伺いしたいと思うんですが、一つの鍵は、やはり張成沢氏の処刑をされたというところがどう解釈されているのかというところであるかと思います。先生のお話をお伺いしていると、その意思にはやはり金正恩第一書記の意思が非常に介在をされていたというところはあるかと思います。他方で、この張成沢氏というのは、金正恩にとっては叔父さんでもあり、おじいさんにとっては娘婿で、彼にとってはお父さんが金正恩の体制を保護するために後見人として選んだ人間だというところ、そういう人間が結局反逆という部分で処刑をされたというのは、金一家にとっては威信も喪失するような部分でもあり、結局、二年間そのままの状態で、最終的に金正恩が決断をして処刑をしたという状態になるまで二年間も放置をしたというところは威信の部分でもある程度影響を与えるというような可能性もあるかと思います。そのようなことを金正恩が積極的にやったのかどうか、若しくは金正恩が及ばないところでやられたというような解釈も出てくるかとは思っております。
あと、他方、先ほどまた先生がおっしゃっていた金正恩第一書記の側近の人も失脚をしているというふうな状況、これも、裏を返せば金正恩第一書記の力というのがまだ確立をされていないという証拠にもなっていて、先ほどの張成沢の処刑もそのような延長であったのじゃないかというような補強にもなり得ると思うんですが、この辺りをどのように考えればよろしいのか、ちょっと教えていただきたいなと思います。

○参考人(平井久志君)
難しい御質問ですが、私が張成沢党行政部長の失脚後に取材をしたりいろいろして感じる非常に奇妙な点は、北朝鮮内部から余りこの張成沢粛清に対する否定的な声がほとんど聞こえてこないという点です。
張成沢党行政部長というのは、処刑される前の年に国家体育指導委員会の委員長にもなり、ある意味では、猪木議員が行かれたときにはお会いになったりして、スポーツ外交などを通じて対日問題にもコミットするような傾向を見せておりました。
ですから、北朝鮮の権力内部では党行政部と党組織指導部という機関同士の葛藤というものが結構続いたんであろうと思います。ですから、何かをしようとする人たちはこの二つの権力機構の顔色を両方見なければ仕事ができないというふうな状況が続いていたのですが、その中で行政部が結局敗北したことによりシステムがある意味では一元化されたという面があるので、その結果として、余り北朝鮮内部からこの粛清に対する否定的な声が聞こえていないという理由の一つが私はあるのではないかなという気がします。
それと、日朝の関係でいいますと、私は二〇〇二年の小泉首相の訪朝の際には北京で取材をしておりましたけれども、当時は、対日外交を主導するミスターX、恐らく国家安全保衛部の柳敬副部長が主導してやっておったと思われますけれども、現在の交渉というものにそういう、何というんですか、やはり全体の対日政策をコントロールするような人物が私はいないのではないのかなという感じを深めております。ですから、局長級会談では宋日昊大使と外務省が主導になり、非公式会談ではまた別のセクションが協議するということで、北朝鮮の内部のシステムそのものも何か一元化されていないのではないのかという印象を私は持っております。その辺がよりこの交渉を難しくしているのではないのかなという、そういう感じを受けております。

○矢倉克夫君
ありがとうございます。
平岩参考人、今の張成沢前行政部長、この処刑の背景というものをどういうふうに考えていらっしゃるのか、金正恩第一書記の意思というのがどのように介在しているのか、御意見があれば教えていただければと思います。

○参考人(平岩俊司君)
もうそれは、今、平井参考人の方からお話があったことと基本的に私も変わらないんですが、いわゆる路線闘争とかそういうことではなくて、やっぱり利権をめぐる争いであったんだろうと、それが二つの組織が争った結果として張成沢氏が排除されるということなんだろうと思います。
ただし、それに金正恩第一書記がどう関わっていたかということですけれども、これはちょっとよく分からないというのが正直なところであります。
ただし、ああいう形で公開的に裁判を行って処刑にまであっという間に持っていくということであれば、少なくとも金正恩第一書記のゴーサインといいますか、金正恩第一書記は、少なくともそれについては反対をせずに是としたということは間違いないんだろうと思います。
そこに金正恩第一書記が陣頭指揮を執ってやったかどうかということについては、残念ながら、今の段階では少しそれを裏付けるだけの根拠がないというふうに言わざるを得ないと思います。

○矢倉克夫君
もう一方で、あと党と軍の関係というものがどのようになっているのか、また平井参考人と平岩参考人に御意見をいただければと思います。

○参考人(平井久志君)
現在の政権も先軍ということを非常に重要視していますから、軍が必ずしも軽視されているということではありませんけれども、例えば、最近の北朝鮮のいろんな発表等を見ていると、国防委員会が発表する発表文というのはほとんど声明等を発表して、重要な政策決定というものが金正日時代に行われたように国防委員会で余り出ていないんですね。今回、二月に重要会議を相次いでやったときも、国防委員会の会議を開かずに、党の中央軍事委員会を開いて軍の人事を決めているわけですね。ですから、軍の路線の決定や軍の人事も国防委員会ではなく党の中央軍事委員会で行われているという私は感じを持っています。
ですから、当然、現在の経済建設と核開発を同時に進行するという並進路線は、これも党の中央委員会総会で決定したものなんですね。そういう意味で、軍の路線も党の決定によって行われているという色彩を強めておりますので、先軍ということ、また核開発ということを重視する路線に変化はありませんけれども、それの決定、指揮系列というものが、軍の会議で決まるよりは党、党の中でも、だから中央軍事委員会の中での機能というものが強まっている。最近の会議でも、軍は党と首領に忠誠を尽くせというようなことがつい数日前にも出ておりましたけど。
それと、先ほどもちょっと言いましたけれども、例えば軍の総参謀長なんかが党の政治局の中ではまだ政治局員候補でしかないんですね。政治局員でもないんですね。今、党の常務委員会の中に、黄炳瑞は常務委員になりましたけれども、元々は党組織指導部で長年軍のコントロールをやってきた人物で党人ですね。ですから、党常務委員会の中にもきっすいの軍人はいない。
ですから、党の政治局の内部においてもいわゆる制服組の軍人たちは余りいないということを考えますと、金正恩政権になって大変重要な決定をする際には、おおむね政治局会議か政治局拡大会議あるいは党中央委員会総会を開いて決定しているんですけれども、そこではやはり党というものが前面に出てきている。ですから、先軍路線というものを標榜しながら、現実的には先党路線といいますか、党が先に立つ路線という色彩が私は強まっているのではないかと。
ただし、これは、だからといって例えば核開発等のウエートを落とすということではなくて、党主導によるそういう軍事優先路線が取られているのではないのかというふうに私は理解しております。

○参考人(平岩俊司君)
党と軍の関係でありますが、これはもう、今、平井参考人が御指摘になった黄炳瑞という軍の総政治局長、これを軍人と見るのかあるいは党人と見るのかによって評価が定まってくるんだろうと思います。これはもう平井参考人御指摘のとおり党人ですから、やはり党が軍をコントロールしているという大枠についてはやはり変わらないんだろうと思います。
これは、北朝鮮の説明によると、北朝鮮は建国以来ずっと党が軍をコントロールしてきたんだと、党が中心なんだということを言います。金正日総書記の時代のまさに先軍政治のときというのは、朝鮮労働党の党大会も開催されないし中央委員会総会も開かれない、政治局の会議も開かれないという、ずっとそういう状況が続いたわけですけれども、そのときですら、北の説明でいえば、党が軍をコントロールするんだという言い方をする。それは、北朝鮮側の説明によれば、どうやら金正日総書記イコール党なんだから、金正日総書記が軍に対してコントロールできていれば、それで党と軍の党軍関係というのは成立しているんだということのようなんですけれども、それを前提にいたしますと、金正恩第一書記が登場するときというのは、形骸化していた党を再建するというところから始まって、とりわけその中でも党の中央軍事委員会、ここが中心になるという、そういう印象を受けておりましたから、党が軍に対してコントロールをしているという大枠は変わらないと思います。
ただし、そうはいいながらも、やはり軍の意向というのは全く無視できる話ではありませんし、それから党の中央軍事委員会のメンバー等を考えても、やはり軍の影響力も一定程度あるというふうに考えるべきで、ですから、組織として党と軍が競争関係にあってというようなイメージよりももう少し、党の中心と軍の中心のコアの部分が一体化して金正恩第一書記と一緒にその運営をしているという、そんなイメージで見た方が今のところはいいのではないかというふうに私は個人的に思っております。

○矢倉克夫君
先ほど平井参考人からも名前も出ていました黄炳瑞氏と崔龍海氏が一年間ぐらいで二回も三回もくるくるくるくる順位が変わっているわけですけど、先ほどのお話ですと、やはり金正恩第一書記の意向で第二番をつくらないという部分での、まあ押さえというところでそういうふうにしているという部分はあるんですが、逆に、これもまたうがった見方かもしれないんですが、内部闘争の激しさがそういうふうに現れているというような見方があるかなと私も質問する前はちょっと思ったんですけど、その辺りは、軍と党との関係とかの関係も絡めてそういう要素は余り考えなくてもよいという理解でもよろしいのか、ちょっとこれもまた平井参考人に教えていただきたいと思います。

○参考人(平井久志君)
これは私の私見ではありますけれども、黄炳瑞さんという人は、党の組織指導部の中の軍事部門の担当も長年やってきた方なんですね。ですから、党の組織指導部の中で、軍を統制する仕事を党の中で長年やってきた人ですから、ある意味で軍の総政治局長というポストはまさしく彼がずっとやってきた仕事とは非常にマッチするんですね。一方、崔龍海さんという人は、この方は青年団体のトップを長年やってきた党人でありますから、元々軍に対してそれほど知見がある人ではないわけですね。その人を当初は軍総政治局長に持ってきたんですけれども、普通に考えれば、党の側が軍をコントロールする経験というか知見ということでいえば、黄炳瑞氏の方が経験、能力共に高いであろうということは我々も考えられます。
それと、もう一つ言えば、黄炳瑞という人は、張成沢さんの言うことは聞かないで金慶喜さんの言うことは聞くというぐらい、余り張成沢さんとは反りが合わなかったという部分があります。それで、現在は非常に強いポジションというか、党の政治局常務委員であり次帥であり軍の総政治局長でありという、党の中央軍事委員会の副委員長でもありますから非常に強く見えるんですけれども、これは、金正恩第一書記の意向一つでは、自分に危険な存在だという彼が認識を持てば、いつでも恐らく交代が可能であると思っております。

○矢倉克夫君
ありがとうございます。
ちょっと済みません、時間がなくなってしまって。
飯塚参考人と西岡参考人と荒木参考人に、時間ですがちょっとお伺いしたいんですが、やはり私も、最後、先ほど西岡参考人からアメリカの関係でお話もありました。私も圧力という環境をつくっていくことが必要であると。その上で、日本の外交、その環境をつくった上でこの局面を打開するには今何が足りないのかをちょっとお伺いをしたいと思っております。
済みません、短い時間なので恐縮ですが、短めにお答えをいただければと思っております。

○理事(塚田一郎君)
短い時間ですので、一言ずつでお願いします。

○参考人(飯塚繁雄君)
まさに、二〇〇二年のブッシュ大統領の取った対応、あれを再現するというのが私の直感的な思いです。

○参考人(西岡力君)
九三年、四年の第一次核危機のとき、朝鮮総連の送金を止めるという厳しい動きを日本がしたときに事態が動きました。
今は厳格な法執行で同じことが再現されている。二〇〇二年のときはブッシュさんという外の要素でしたが、そうではなくて、今は中の要素で同じ圧力をつくりつつあるのではないかと思っております。それを延長すべきであると。

○参考人(荒木和博君)
何よりも足りないものは覚悟だと思います。政府にその覚悟があれば道は開けるというふうに思っております。

○矢倉克夫君
ありがとうございました。

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