190回 法務委員会(刑事訴訟法改正案)

2016-04-21

○矢倉克夫君

こんにちは。公明党の矢倉克夫です。よろしくお願いいたします。
今日は、まず可視化についてお伺いをしたいと思います。
一昨日、参考人の方、四方いらっしゃいまして、まず、この問題について私の立場がやはりこの方と合っているなと思った部分、基本的なところは河津参考人がおっしゃっていたところが私も同意見のところが多かったと思います。今回の可視化については、やはり録音、録画が義務付けされたということ、そして捜査の全過程についてという形で規定をされているというところ、これは大きな一歩であるなと。河津参考人もおっしゃっていたわけですが、これを一歩として今後どのように広げていくのかというところに期待を込めた上で、方向性としてはこの方向であろうかというふうに私も認識をしているところです。
他方で、一昨日も四人の方のお話をお伺いをしていて改めて印象的だったのは、河津参考人と大澤参考人は賛成の方向、小池参考人と桜井参考人は反対という方向であった。ただ、可視化自体はやるべきだという御意見があったわけですが、じゃ、何が違うのかというと、やはりこの可視化の制度についての検察、警察、捜査の姿勢に対しての信頼というか、そういうところが基本的に違っていたのかなというふうに思ったところであります。法案の内容もそうなんですけど、まずはこの法律について運用される方々がどういう姿勢を持って、背景の思想的なものもどういうようなものを思いながらやっていらっしゃるのかというところが確認をすべき重要なポイントではないのかなと、一昨日の参考人の質疑をして思った次第であります。
それで、ちょっと質問の通告の順序を少し変えさせていただきたいと思っております。通告の順でいうと四つ目、五つ目という形になるか、項目としては、まず可視化と取調べについてのところをお伺いをしたいと思うんですが、まずは警察庁の方にお伺いをしたいと思います。
今回の可視化は、趣旨としては、取調べに対しての過度な依存を排する趣旨であるということであります。他方で、過度な取調べに対しての脱却というところ、ただ、全体として、やはり取調べというものそのものは引き続き有用だという御判断もあるというふうに理解もしております。
この可視化以後も、取調べというものについてはどのような役割があると御認識をされているのか、警察庁から答弁いただければと思います。

○政府参考人(三浦正充君)

御質問にもございましたように、過度に取調べや供述調書に依存をするということは、これはもとより避けなければならないわけでありますけれども、一方で、被疑者の取調べは、故意や目的など犯罪の主観的要素、共犯関係における謀議状況等の解明、真犯人のみが知り得る犯罪の全容の解明、供述によって新たな客観的証拠の発見に至ることなど、事案の真相解明のため非常に重要な役割を果たしているものでございます。新制度の下においても、証拠収集手段の適正化、多様化を図りつつも、必要な範囲で適正に被疑者の取調べを行うことは引き続き重要と考えております。
警察といたしましては、適正に捜査を進めつつ、事案の真相解明を図り、安全、安心を願う国民の期待に応えてまいりたいと考えております。

○矢倉克夫君

今、警察庁の取調べに対しての今後のまた改めての姿勢というのがありました。
法務省の方にお伺いをしたいと思うんですが、そのように引き続き取調べというのはある、ただ、それに過度に依存をしてはいけない、このような思想の下で法改正ということであります。
今回の法改正、その可視化という部分に限られずでも結構ですが、この法改正によって、全般的なものも含めて、過度な取調べからどのように脱却されるというふうに認識をされているのか、答弁いただければと思います。

○政府参考人(林眞琴君)

今回の法改正、法律案のまず出発点というものが、やはり検察の在り方検討会議の提言、それからそれに引き続きます法制審議会の審議であったかと思います。そこで指摘されておりますのは、やはり現在の捜査、公判、これまでの捜査、公判が、取調べとさらに取調べで作られる供述調書、これに過度に依存した状況にある、そして、このような状況は取調べにおける手続の適正確保というものが不十分になったり事実認定を誤らせるおそれがある、こういうふうに考えられると、このような指摘があったわけでございます。
そこで、このような状況を改めて、公判廷において事実が明らかにされる刑事司法、こういったものをつくるためには、まず一つには、捜査段階では取調べのみに頼るのではなく、適正な手続により十分な証拠が収集されるように、取調べを含む捜査全般の適正を担保しつつ取調べ以外の適正な捜査手法をも整備すること、すなわち証拠収集手段の適正化、多様化が必要であるということ、さらに、公判段階におきましては、必要な証拠ができる限り直接的に公判廷に顕出されて、それについて当事者間で攻撃、防御を十分に尽くすことができるようにすること、すなわち公判審理の充実化が必要であると、こう考えられるに至ったわけであります。
こうしたことから、本法律案に盛り込まれている様々な諸制度はそれぞれ、証拠収集手段の適正化、多様化という点と公判審理の充実化という点という、この目的に資するものでございまして、それらが一体として刑事司法制度に取り入れられることにより取調べ及び供述調書に過度に依存した状況が改められて、より適正で機能的な刑事司法制度を構築することができるものと考えているところでございます。

○矢倉克夫君

公判廷というところから説明がありました。その公判廷に今まで、過度に依存した取調べ、ある意味不適切な取調べも含めたものがあった上での証拠というのが出てきたと。その根源は、やはり取調べというものの適正化をまず図らなければいけないというような部分であったというふうに私は理解もしております。
今のお話も聞いていて、やはりこの法律の中で一番肝は可視化の部分であるなと。可視化をすることで捜査の適正化というものも図っていく。ただ、従来取調べで依存をしていたところが、逆に様々な立証の部分で、真実発見のところでは意味もあったところも、効果という部分もあったのかもしれないけど、そこが縮減されることで、それが真実発見に害しないような形で証拠収集の多様化も図るというような全体の流れもあって、肝はやはり可視化であるなというふうに理解もしているところであります。
それで、録音、録画における取調べの可視化の効果を改めて私の方で理解をしている限りお伝えをしたいと思うんですが、今申し上げたとおり、一つは、取調べ可視化によって、それが捜査機関等にもいろんな心理的な影響等も与え、それが最終的には適正化につながるという点が一点目、二点目が、可視化、録画等をしたことにより供述調書の任意性の立証に有益であるという点、この二点であるというふうに理解もしております。ただ、何度も申し上げる、基本は捜査の適正化というところであり、供述調書の任意性の立証等が目的ということを余りに強調するのは法改正の趣旨が伝わらない部分も出てくるんじゃないかなというところは一つの問題点であります。
その上で、次の質問、ちょっとまた法務省の方にお伺いもしたい可視化の位置付けというところですが、今回の法改正ですけど、この可視化の規定が置かれているのは証拠能力のところであります。証拠能力のところにこれ規定されているということを捉えて、これは結局、自白調書を使うということ、これをどのように立証に使っていくのかとか、そういうところを基本にした制度設計であるというような御批判もある。捜査の適正化というよりは、違う方向で制度設計をしているのではないかというような御批判もあるところであり、これは供述調書への過度な依存を排するという議論の出発点と異なるのではないかという御意見もあるわけですが、それについてはどのようにお考えでしょうか。

○政府参考人(林眞琴君)

本法律案の取調べの録音・録画義務は、法制的な観点から、供述調書の任意性が争われたときの録音・録画記録の証拠調べ請求義務を前提として、その確実な履行に備えて捜査機関に録音・録画記録を作成しておくことを義務付けるものとして位置付けております。
これは、その理由でございますが、被疑者の供述の任意性等の的確な立証判断に資する、あるいは取調べの適正な実施に資する、こういった録音、録画の効果は、いずれも記録すること自体から生じるわけではなく、事後的に記録内容が吟味される、こういう録音・録画記録の利用又はその可能性によるものでありますから、そのことからすると、法制的な観点からは、まずは検察官に公判段階における録音・録画記録の証拠調べ請求を義務付けるということが合理的であり、その上で当該義務の履行を確保するための措置として捜査機関に捜査段階における録音、録画を義務付けることが合理的であると、このように考えられたことによるものでございます。
こういった法制的な理由から、法律案の刑事訴訟法三百一条の二におきまして、まず第一項として取調べの録音・録画記録の証拠調べ請求義務を規定し、そして第四項として取調べの録音・録画義務を定めておりますが、録音・録画義務は原則として逮捕、勾留中の取調べの全過程について録音、録画を義務付けるものでありまして、このような法制的な位置付けいかんによってこの録音・録画義務の範囲でありますとか例外事由の解釈、判断に影響するものではなく、この制度が取調べの適正な実施に資する、こういうものであることに何ら変わることはないわけでございます。
本法律案の取調べの録音・録画制度は、被疑者の供述の任意性等についての的確な立証を担保するとともに、さらに取調べの適正な実施に資する、こういった二つのことを通じまして公判審理の充実化及び証拠収集手段の適正化に資するものでございまして、取調べ及び供述調書に過度に依存した状況を改めるという趣旨にかなうものであると、こう考えているところでございます。

○矢倉克夫君

大臣にちょっとお伺いしたいんですが、今の林刑事局長からのお話ですと、録画をすること自体が適正化ということではなく、やはり事後にその立証の観点から、という側面から最終的に録画ということが検察官等の立証活動にも影響を与え、それが捜査の適正化につながるというような御意見だった、これは私も理解もするところであります。ただ、これは、あくまで立証のためのものがというところはこれは手段であり、目的はやはり捜査の適正化であるなという理解が私はしております。
昨年の本会議で、私は代表質問で要するに今回の可視化のところについての趣旨をお尋ねをいたしたところです。捜査の適正化と任意性の立証の有用性という二つがあるが、やはり基本は捜査の適正化というところに力点を置くべきだというような質問をさせていただいたんですが、そこの辺りはまだ明確には御答弁をいただいていなかったわけですが、大臣の御所見としてはどのようにお考えでいらっしゃいますでしょうか。

○国務大臣(岩城光英君)

取調べの録音、録画には、お話がありましたとおり、被疑者の供述の任意性等についての的確な立証に資する、あるいは取調べの適正な実施に資するという有用性があり、これらはいずれも重要なものであると考えております。
本法律案の録音・録画制度の趣旨、目的は、これらの録音、録画の有用性を我が国の刑事司法制度に取り込むことによりまして、より適正、円滑かつ迅速な刑事裁判の実現に資することにありまして、真犯人の適正、迅速な処罰ととともに誤判の防止にも資するものであると、そのように考えております。

○矢倉克夫君

ありがとうございます。まさに、真犯人の発見と誤判の防止、両方これやらなければいけないというところが私も先日の質問では申し上げたところであり、そのところはまさにそのとおりであるかなと思っております。
その上で、この可視化の位置付けというところを政府として改めてどのようにお考えなのかというところに関連してまたいろいろお伺いもしたいと思うのですが、今お話もあったこのような今回の法の体系を取ることで、供述調書を作成したものだけがまず録音・録画資料の証拠調べ請求の対象となるということには明文上はなっていると。でありますので、この部分で、証拠調べの関連で可視化というものがこれは担保されているわけですけど、これは法務省の方にお伺いもしますが、それ以外についてはどのように担保されているというふうに御理解されているか、答弁いただければ。

○政府参考人(林眞琴君)

御指摘のとおり、本法律案におきましては、捜査機関に対してまず、供述調書を作成するかどうかを問わず、原則として逮捕、勾留中の被疑者の取調べの全過程を録音、録画することを義務付けるとしておるわけでございます。
〔委員長退席、理事西田昌司君着席〕
もとより、捜査機関としては、取調べのこれは任意性が争われた場合の取調べ請求義務の対象範囲いかんにかかわらず、そのような法律の規定、すなわち全過程の録音、録画、こういうものが義務付けられており、これを遵守することになると考えております。その意味で、任意性の立証に資するというこの録音・録画制度のメリットのみならず、やはりその手続の適正ということに資する制度であるということがこの全過程の義務付けであるというところに表れているものと考えております。
その上で、では、その取調べ請求義務が掛かっていない取調べにおける録音・録画義務、これがどのように守られるのか、あるいは守られない場合にどうなのかと、こういった御質問でございますけれども、まず、証拠調べ請求義務の対象は確かに任意性の争われた供述調書が作成された取調べの録音・録画義務とされているわけでございますが、各回の取調べで、取調べを開始する時点ではその取調べで供述調書を作成する予定が仮になかったとしても、急遽、供述調書を作成する必要が生ずるということはあり得るわけでございます。その場合に、録音・録画記録の証拠調べ請求義務違反となって、その取調べで作成した供述調書が却下されてしまうことがないようにするためにも、取調べ開始時点で、供述調書作成の予定の有無にかかわらず、捜査機関といたしましては取調べ開始当初から録音、録画を各回において実施しておかなければならないことになると考えられます。
〔理事西田昌司君退席、委員長着席〕
そして、検察官は、任意性が争われた供述調書が作成された取調べの録音・録画記録の証拠調べ請求をすれば証拠調べ請求義務を履行したということにはなりますけれども、それによって直ちに供述調書の任意性が立証できるわけではございません。検察官は、立証責任を負う立場として、例えば供述調書を作成した取調べの前日の取調べにおいて利益誘導があったなどとして供述調書の任意性が争われた場合、その場合には、その前日の取調べの録音・録画記録、これを用いるなどして供述調書の任意性を的確に立証していくことが求められるわけでございますが、前日の取調べについては録音、録画を義務に違反して実施していなかった場合、検察官としては任意性についての最も的確な立証方法であるところの録音・録画記録を用いることができなくなる上に、合理的な理由なく録音・録画義務に違反しておれば、そのこと自体が取調べの任意性を疑う事情として考慮され得ることとなるわけでございます。
したがいまして、録音・録画記録の証拠調べ請求義務の対象が限られておりましても、全体の全過程における必要十分な録音、録画が行われないということにはならないものと考えております。

○矢倉克夫君

今のお答えとまた関連するところであります。重なった質問になるかもしれませんが、まさに今のような現実的な実務の上からの可視化の拡大というところは、これは期待をされるところである。
一昨日、小池参考人が、やはり自白調書の取調べの関連のみで、これまた法務省にお伺いします、関連でちょっとお伺いもしたいんですけど、やはりこのような録音、録画ということが書かれていると、結局、捜査としても録音、録画しているのはその取調べ請求する供述調書の部分だけになるんじゃないかというような御懸念があったわけですが、これについてはどのようにお考えでしょうか。林局長、よろしくお願いします。

○政府参考人(林眞琴君)

ただいまも御答弁いたしましたけれども、録音・録画義務を欠いていた場合、果たしていなかった場合、まずその任意性の立証という点で非常に大きなリスクを負うことになるわけでございまして、その点でも当然、その録音、録画というものを必ず履行するということになろうかと思います。
その上で、任意性の立証に必要な場合にのみ、その当該取調べにおいて録音・録画義務が履行されたかどうか、これだけが公判で問題になるわけではございませんで、やはり証拠開示を通じまして、被疑者、被告人に対していつ、どういう取調べが、何回取調べが行われたということは開示されますし、その上で実際に録音・録画記録媒体が存在するかどうかということも開示されるということになりますので、その意味で、問題となっている供述調書が作成された取調べ以外の取調べにおける録音、録画の履行状況につきましても当然公判の中で問題とされ得るわけでございますので、捜査機関といたしましては、法定の義務を当然履行しなければそういった将来の公判でそのようなことが問題とされ得るということから、履行はされるものと考えております。

○矢倉克夫君

実際の立証戦略の中で様々なケースを考え、そのケースに資するというところからやはり可視化が、法定は一部かもしれないが、様々な部分まで広がっていくという実務的な感覚であったと思います。
一昨日も大澤参考人などが、検察側の立証の観点のみならず、例えば弁護側なども、供述の任意性等が争われた場合、その争われた事情が、それによっては、供述調書そのものではなく、その供述調書をする前に任意性を争うような事情があるとすれば、その事実についての録音、録画なども公判前の整理手続とかで弁護人からはこれを請求してくる可能性もある、そういう場合も含めてやはり考えなければいけないというような御趣旨もあった。その部分でも更に可視化はやはり広がっていく方向ではあるというふうに私は理解もしております。
その一方で、今のような立証の観点からとともに、これはまた後ほど大臣に政治の決意として、このような可視化を通じて、現場の立証の感覚というのみならず、これをしっかりと捜査の適正化につなげていくというような部分での御決意的なものはちょっとまた後でお伺いもしたいと思っておりますが、ちょっとまず先に進めさせていただきたいというふうに思います。
その上で、今のような一部だけ切り取る、供述調書に関しての部分での録音、録画だけを請求してきて、それだけが担保されるんじゃないかというようなところは一つ現実の立証の中ではあるかもしれないんですが、他方で、一昨日懸念があったところは、小池参考人からもう一つとして、抜け穴として言われるところは例外事由のところであると思います。一昨日も話もありました。
例としては、例外事由の中で、こちらも法務省の方にお伺いもいたしますが、例外事由の中で、言われているところは、記録に必要な機器の故障、このような場合は可視化ができないと。ただ、それだけではなくて、その他やむを得ない事情によりという部分の例外もございます。もう一つは、被疑者による拒否。拒否をした、録音、録画は嫌だと明示的に拒否をした場合に加えて、その他の被疑者の言動により、記録をすると被疑者が十分に供述できないと認めるときという要件がございます。
これについて、とりわけ被疑者の拒否の部分については、大澤参考人もこの辺りの解釈というところに関しては、拒否とほぼ同じような、供述できないということが大事な、私は黙秘しますから供述しませんというのではなくて、やはり録音されているから供述したくてもできませんと、そういうふうに取れるような拒否なりあるいは言動だというような一つの解釈の指針も出されていたわけですけれども。
この二つ、その部分について、やはり捜査機関の広範な裁量に委ねられるのではないか、これが結局、部分可視化を導く根拠にもなるんじゃないかというような御懸念があったわけですが、そのような解釈、御懸念について法務省はどのようにお考えか、答弁いただければと思います。

○政府参考人(林眞琴君)

まず、捜査機関がこの例外事由に当たると判断して録音、録画をしなかった場合、これにつきましては、公判でその例外事由の存否が問題となり得ます。その場合には、それが裁判所の審査の対象となります。
裁判所においてこの例外事由が存在したかどうかを裁判所の立場で判断しますので、捜査機関側としては、その段階で例外事由が確かに存在したということを立証しなければなりません。そういった意味におきまして、捜査機関としましては、例外事由を十分に立証できる見込みがない限り、例外事由に当たるとして録音、録画をしないということはできないわけでございまして、この例外事由の解釈が捜査機関の広範な裁量に委ねられるという余地はないものと考えております。
この点、捜査機関が自分の側として例外事由に当たると思っていたとしても、仮に裁判において例外事由には当たらないという判断がなされた場合には、その取調べにおける供述調書の任意性についてはこれは証拠調べ請求が却下されてしまうわけでございますので、そういったリスクを負った上でこの例外事由を判断しなければならないという立場にございますので、恣意的な裁量に委ねられる余地はないものと考えております。
その上で、若干その中身について申し上げますと、例えば今回、被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録したならば被疑者が十分な供述をすることができないと、こういった場合が例外事由になっておるわけでございますが、この点につきましても、被疑者が十分な供述をすることができないと認める、第一次的な認める判断は捜査機関、取調べ官が行うわけでございますが、単にそのような十分な供述ができない、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるのでは足りないわけでございまして、法文上、被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動によりという要件が掛かっております。すなわち、この十分な供述をすることができないかどうかの判断する認定の事情、材料を、外部に表れた被疑者の言動に限定されておるわけでございます。
すなわち、その被疑者の言動というものは、一つの例示といたしましては、被疑者が記録を拒んだことというものが例示として挙げられておりまして、その他の被疑者の言動という点につきましても、外部に表れた言動で被疑者が録音、録画を明示的に拒否したときと同程度の根拠を持って、やはり記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができない、こういった認定ができるような必要があると、こういう趣旨での法律の規定となっております。
したがいまして、こういったその外部に表れた被疑者の言動というものをもって、この例外事由を捜査機関といたしましては後の公判において立証しなければ例外事由が認められないという関係にございますので、この意味におきましても恣意的な裁量で例外事由を広く認定するということはできないものと考えております。

○矢倉克夫君

今、立証のリスクというところとともに、解釈として、特に拒否の部分で、明示的な拒否と同程度のという明確な方針もあったかというふうに理解もいたしました。その部分では、これが恣意的に運用されるというようなリスクは相当程度低まったというふうに私は理解もいたすところであります。
また重ねての質問になるわけですけど、法務省にまたお尋ねします。この例外事由に当たることの証明はどのようにされるのか、重なる部分もありますが、改めてお尋ねをしたいと思います。

○政府参考人(林眞琴君)

この取調べ録音・録画義務の例外事由の立証については、当然事案に応じて様々な方法があると思いますけれども、まず、例えば警察署の取調べ室における取調べの際に、録音・録画記録の故障を理由として例外事由に該当するという判断がなされた場合には、その取調べ室に配備されております録音・録画機器が故障していることとともに、その警察署に他に使用できる録音・録画機器がなかったこと、こういったことを捜査報告書や捜査担当者の証言等の証拠によって立証することが考えられます。
また、例えば記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めて例外事由に該当すると判断がなされた場合には、この点につきましては、先ほども申し上げましたが、拒否とかそれに同程度のその他の言動、外部に表れた言動というものが、そういった言動がなされるまでの間は当然その全過程録音・録画義務が掛かっておりますので、録音、録画がなされている場合が多いと思われます。そうすれば、被疑者が録音、録画の下でそれを拒否する旨発言している状況でありますとか、あるいは録音、録画の下では十分な供述ができないんだという旨の発言をしているという状況はその記録媒体に記録されていると思われますので、こういったことを取調べの録音、録画の記録媒体でその例外事由の存在を立証したり、あるいはあらかじめ被疑者から拒否の上申書が出ていたとか、そういう場合もございましょうし、そういった場合にはそういった証拠によってこの例外事由の立証をすることが考えられると思います。

○矢倉克夫君

今法務省の方から例外事由の立証について答弁があったわけですが、これをまた認定する最高裁としては、最高裁といいますか裁判所としてはいかがな態度で臨むのか、こちら最高裁から答弁いただければと思います。

○最高裁判所長官代理者(平木正洋君)

取調べの録音・録画義務の例外事由があるかどうかの判断につきましては、裁判体におきまして検察官及び弁護人の主張、立証を吟味し、個別具体的な事情を踏まえて判断すべき事柄でございますので、一般論としても最高裁判所の事務当局としてお答えする立場にはございませんが、最高裁判所といたしましては、今国会での議論の状況等を全国の裁判官に確実に情報提供するということを努めてまいりたいと考えておるところでございます。

○矢倉克夫君

今の様々な議論の中での状況をお伝えすると。最後は裁判所がどのように運用していくのかというところも非常に重要であると思っております。どのような理念でこの法律が与えられているのかというところを踏まえて、是非引き続きの御対応をお願いしたいと思います。
その上で、またちょっと次の質問に行かせていただきたい。
引き続き可視化でありますが、可視化を今適正な捜査につながるような形でどのように効果があるのかという観点でお話もしたわけでありますが、もう一つ、やはり今回この可視化の部分を含めた法がやはり重要であるなと思うのは、これが重要な一歩としての位置付けがあるというところであると思います。可視化に関しては、今回法定された部分を一歩にして、やはり今後更にこれを広げていくところが一つ見込まれているというところが私は重要な点であるかなというふうに思っているところであります。
その議論の前提で、また法務省の方にお伺いもしたいと思いますが、対象事件に今回選定されたのが裁判員裁判と検察官独自捜査事件、このそれぞれについて、必要性の観点からというふうな御答弁も以前あったと思いますが、この内容も含めて、なぜここが対象事件となるのかというところを法務省の方から答弁いただければと思います。

○政府参考人(林眞琴君)

今回の法律案の録音・録画制度は、原則として被疑者取調べの全過程を録音、録画を義務付けることを内容とするものでございますが、全ての事件一律にこの制度の対象とすることにつきましてはその必要性また合理性に疑問があり、また制度の運用に伴う人的、物的な負担も甚大なものとなります。また、録音・録画制度は捜査機関にこれまでにない新たな義務を課すものでございますので、捜査への影響を懸念する意見もございます。そこで、検察等における運用で録音、録画が行われることも併せ考慮した上で、法律上の制度といたしましては取調べの録音、録画の必要性が最も高い類型の事件を対象とすることとしたものでございます。
この点、まず裁判員制度対象事件につきましては、いずれも重い法定刑が定められている重大な事件でありまして、取調べ状況をめぐる争いが比較的生じやすいという点がございます。また、裁判員制度対象事件につきましては、取調べ状況について公判で裁判員にも分かりやすい立証が求められるという点がございます。こういった点を比較考量しますと、この裁判員制度対象事件は録音、録画の必要性が最も高い類型の事件として考えられたわけでございます。
もう一つ、検察官独自捜査事件について対象としているわけでございますが、この検察官独自捜査事件につきましては、通常の警察送致事件とは異なりまして、被疑者の取調べが専ら検察官によって行われます。したがいまして、被疑者が異なる捜査機関の取調べによりそれぞれ別個の立場から多角的な質問や供述の吟味を受ける機会というものが欠けております。したがいまして、その取調べ状況をめぐる争いが生じた場合、裁判所においては異なる捜査機関に対する供述状況を踏まえて事実認定をするということができない、そういった材料に乏しい類型の事件となります。その点で、司法警察員送致・送付事件と比較しまして取調べ状況に関する事実認定に用いることができる資料に制約があるわけでございます。このほかに、この検察官独自捜査事件についても、他と比較しまして取調べ状況をめぐる争いが比較的生じやすいという点もございます。こういったことから、これについてもこの録音・録画制度の対象事件とすることとしているわけでございます。

○矢倉克夫君

ちょっとまた質問の順序を少し変えてというか、後ほどお伺いする予定であった法務省にまたお尋ねをしますが、弁護士会からの意見で、衆議院の参考人質疑などでも実務的運用を重ねた全面的可視化への期待というものが述べられております。
今、林刑事局長からは、一律には難しい、これは例外事由等もあるという部分も含めてだと思いますが、あと人的、物的な、そういう物理的なところがあると。もちろん、これは考慮もしなければいけない。ただ、それらがどんどん、これは段階を追って、急にというものではなくて徐々に徐々に克服されていって、一定段階においては更に広げていくということも考えなければいけないと思っておりますが、弁護士会からもこの実務的運用を重ねた全面的可視化への期待が述べられているわけですけど、それについては御意見はどのようにありますでしょうか。

○政府参考人(林眞琴君)

今回導入しようとしております録音・録画制度については、これまでにない新しい制度でございますので、その効果でありますとか課題につきましては実際に制度を運用してみなければ分からないところが少なくないわけでございます。
この法律案の附則九条第一項におきまして、取調べの録音・録画制度について施行後三年が経過した後に必要な見直しを行うといった見直し条項が、いわゆる検討条項が設けられておるわけでございますが、この方向性についてあらかじめ現時点で確たることを申し上げることは困難でございますが、いずれにしましても、捜査機関による運用によるものも含めまして実際の取調べの録音、録画の実施状況、すなわちその運用のものと今度義務付けられる制度としての実施と、こういった実施状況全部を勘案しながら、実際の今回の制度の趣旨、すなわち、先ほど来あります被疑者の供述の任意性の的確な立証の判断に資する、あるいは取調べの適正な実施に資するという、こういった取調べの録音・録画制度の有用性というものは今回の法案の中にも、附則の中にも書き込まれておりますので、こういった趣旨を十分に踏まえて検討することが重要であろうかと考えております。
これまでの経緯等を踏まえますと、取調べ録音、録画についての取組が後退するようなことはないものと考えております。

○矢倉克夫君

今既に検察の方でも、法定対象されたもの以外のものもどんどんと試行で広げられているところであります。
また法務省の方にお尋ねをします。
現場の運用が重要であるというところの御意見もございました。更にまたお尋ねしますけど、具体的にどのように取り組まれるのかというところをまず法務省にお尋ねもして、その後、警察庁にも御答弁いただければと思います。

○政府参考人(林眞琴君)

検察につきましては、当初四つのカテゴリーについて録音、録画をするということを行っていた時代がございましたけれども、さらに、既にそのカテゴリーを超える、すなわち罪名を問わず録音、録画に取り組むと、こういった方針の下、積極的に録音、録画を運用として実施しているところでございます。こういったまた録音、録画の対象を、被疑者だけではなく参考人に対しても広げておるわけでございます。
こういった取組というのは、やはりこれから法律案が施行されれば義務として行われる録音、録画というものがございますが、一方で、先ほど来ありますように、やはり任意性の立証というものに資するという点はこの義務の範囲を超えて様々な取組を行う一つの考え方の柱になっておりますので、そういった観点からも録音、録画の実施に積極的に更に取り組んでいくものと考えられます。

○政府参考人(三浦正充君)

警察におきましても取調べの録音、録画の試行に積極的に取り組んでいるところでございまして、直近の速報値による数字でありますけれども、平成二十七年度中における裁判員裁判対象事件等に係る取調べの録音、録画の実施件数は二千八百九十七件、一事件当たりの実施時間も前年比プラス七時間の二十一時間余となるなど、制度化も見据えながら確実に実績を積み重ねているところであります。
しかしながら、警察におけます年間の裁判員裁判対象事件の検挙は三千件を超えておりまして、延べ四万回を超える被疑者取調べが行われているという状況でございまして、まだいわゆる対象事件の全過程について録音、録画を試行で実施をしたという比率はおおむね五割程度、半分程度というところにとどまっているところであります。
この後まだ、法案が成立をいたしますればこの録音、録画が義務付けということになりますので、今半分程度のものを原則一〇〇%に近づけていくという大変重い課題を負っているわけでありまして、まずはこの裁判員裁判対象事件で確実に実施ができるようにするということを最大の課題と捉えておりまして、そのための運用を積み重ねているところでございます。
今後は現場レベルで具体的かつ実践的なノウハウも積み重ねられていくわけでございまして、その制度対象外の事件につきましても、個別の事件ごとに検討いたしまして、供述の任意性等をめぐる争いが事後想定されるような場合には録音、録画を実施していくといった運用は十分に考えられるところでございますけれども、まずは現在の対象範囲の中で録音、録画をしっかりと行えるようにしてまいりたい、まずそれを最優先で取り組んでまいりたいと考えております。

○矢倉克夫君

今警察の方からも制度対象外もという部分のお話もあった。まずは対象部分についての一〇〇%というところはおっしゃるとおりであると思います。
その上で、それ以外についてもどんどん広げていくというところの趣旨の話もあったわけでありますが、一昨日の参考人の質疑のときに一つ話題になっていたのが、録音、録画の対象事件以外で逮捕、勾留されている被疑者を余罪である録音、録画の対象事件で取り調べるときに録音、録画がどこまで及ぶのかというような話もありました。
警察としては、このような事案についてはどのような形で録音・録画義務というものを履行するために運用をされていらっしゃるお考えか、御答弁をいただければと思います。

○政府参考人(三浦正充君)

例えば、殺人事件の立件に先立って死体遺棄事件の捜査を行っているといった場合など、両事件の関連性が高く、公判においても審理が併合されることが見込まれるような場合には、当初の事件、すなわち今の例で申し上げますと死体遺棄事件でありますけれども、当初の事件についての取調べの段階から録音、録画を広く行うという運用が想定をされるところであります。この点、現在警察において取り組んでいる録音、録画の試行においても既に同様の運用がなされているところでございます。
他方、これは余り例は多くないとは思いますけれども、仮に裁判員裁判対象事件以外の事件で逮捕、勾留中の被疑者が、したがって録音、録画を行っていない場合もあるわけでありますけれども、その中で、捜査機関側の予期しないような場面で裁判員裁判対象事件に関する供述を始めたといったような場合には、それ自体を録音、録画するということはこれは物理的にできないわけでありますけれども、その後、その対象事件に関する取調べを行う時点では録音、録画を行っていなければならない、この部分には義務付けが掛かるというように承知をしております。
いずれにしましても、こうした録音・録画制度の運用を捜査員が適切に行うことができるように教養を徹底するとともに、捜査幹部の適切な指揮の下で法の定める録音・録画義務を確実に履行できるような体制を構築をしてまいりたいと考えております。

○矢倉克夫君

別件と本件といいますか、それぞれの関連性の認定などもいろいろあると思います。ただ、後々の捜査等、また立証等にも支障のないという観点からも含めて、幅広にどんどん録音、録画していくという点はやはり大事であるというところは期待をしたいと思います。
大臣に、最後一言だけ、また改めて同じ質問をするところでありますが、やはり、先ほども法務省の方からも、任意性の立証という部分からの観点からこの義務を超えてやっていくという柱が大事だったと、そのとおりであると思います。
それを理解した上で、大臣の御認識として、やはり録音、録画というものが、立証という部分も当然有用性はあるわけですけど、まずは捜査の可視化、適正化というものにしっかりと資するものであり、その観点から更に進めていくというような部分での御意見についてどのようにお考えかということを御質問をさせていただきたいというふうに思います。

○国務大臣(岩城光英君)

重ねてのおただしでありますけれども、取調べの録音、録画には、任意性についての的確な立証に資するとともに、御指摘のとおり、取調べの適正に資するという有用性、それら二つがあるものと認識をしております。これによりまして、より適正、円滑かつ迅速な刑事裁判の実現に資することができるものと考えております。
私といたしましても、録音、録画の持つ有用性は非常に重要なものであると考えておりますので、検察におきましても積極的に録音、録画に取り組んでいくものと、そのように承知をしております。

○矢倉克夫君

ありがとうございます。大臣の御期待どおりの運用を是非現場でもしていただきたいというふうに思います。
改めて、今回の可視化については、やはり義務という形で法定されたというところ、これに違反するところはやはり違法という評価を受けるということが明確になったというところは非常に重視もしなければいけないし、そういう観点から現場の方々もしっかりと法の運用をしていただきたいというふうに思います。それがしっかりと続くことで、様々な御意見もあるわけですが、やはりしっかりと現場が運用をしていくんだという安心感が法についての更なる理解に私はつながっていくという理解でおります。
以上申し上げまして、質問を終わりたいと思います。ありがとうございます。

メールマガジン
メールマガジン
矢倉かつおNEWS
矢倉かつおNEWS
国会議事録
私の国会質問
矢倉かつおCHANNEL
矢倉かつおCHANNEL