200回 本会議(日米貿易協定)

2019-11-20

○矢倉克夫君
公明党の矢倉克夫です。
会派を代表し、ただいま議題となりました両協定、特に日米貿易協定について御質問いたします。
今般まとめられた両協定、とりわけ日米貿易協定は、経済成長、消費者利益、自由貿易推進などの諸点において意義あるものと評価をいたします。
一方、政府にまず強く求めたいことは、協定により影響を受ける可能性のある方々、特に農家を徹底的に支えることであります。これなくして自由貿易推進への理解はあり得ません。
その上で、政府には、自由貿易の旗手として多国間協調主義を守ることにも全力を挙げていただきたい。自由貿易の価値は、お互いの優れた点を共有し、全体を押し上げる協調の精神であります。これは、自国の利益のみを時に他国の犠牲の下に追求する保護主義とは対局にあります。
以上を前提に、まず、農業支援についてお伺いをいたします。
政府は、今回の交渉による農林水産物の生産減少額を約六百億から千百億円と試算します。生産する量は減らず、競争により販売単価が低下した前提であるとのことですが、消費者にはプラスの数値である反面、生産者側にとっては単純に売上高の減少となります。
農業の生産性を高めコストを低下させることで、生産者の利益、利潤を維持する、これが政府の責任です。
そのために重要なことは、生産関係者の連携、力を合わせる仕組みづくりであります。産地パワーアップ事業や、今回、生産額の減少が試算されている畜産分野における畜産クラスター事業の維持及び更なる充実が求められております。この点に関し、農林水産大臣の御所見をお伺いいたします。
豚コレラ改めクラシカル・スワイン・フィーバー、CSF対策についてお伺いをいたします。
私の地元埼玉県においても、疑似患畜五例目が確認をされました。CSF対策は、家畜伝染病予防法などの下、都道府県単位で対応することが基本でありますが、これ以上の蔓延を防ぐため、国としてもより積極的に県域を越えた広域による防止策に力を入れていただきたく思います。今後のCSF対策について、農林水産大臣にお伺いをいたします。
日米貿易協定を受けた農業支援につき、国際競争力のある分野に重点を置くべきとの意見もあるやに聞き及びますが、慎重であるべきです。競争力を高めることも政府の責任である一方、より以上に大事なことは、冒頭申し上げた趣旨にのっとり、自由貿易推進によっても誰も取り残されない経済をつくることであります。特に、条件不利地や中山間地域なども含めた農業基盤の整備をするべきです。これは、自由貿易を進める政府の責任であります。農業支援一般の在り方について、総理の御所見をお伺いいたします。
政府は、協定による経済成長をGDP〇・八%、二〇一八年度換算で四兆円と見込みますが、これは、自動車及び自動車部品に関する関税撤廃を織り込んだものであります。試算に盛り込む以上、政府は、早期の関税撤廃に向け、全力を尽くさなければなりません。
米国との附属書Ⅱに関税撤廃に関する交渉とだけあることを捉え、協定はTPPより後退をしているとの御指摘もありますが、そのTPPにおける自動車関税撤廃は二十五年後、トラックは三十年後であります。ここに言う交渉とは、TPPと同水準、あるいはより日本に有利な条件を勝ち取る思いでの交渉であり、政府はその思いで交渉に当たっていただきたい。今後の自動車交渉に当たっての総理の御決意をお伺いいたします。
あわせて、牛肉セーフガードについてお伺いをいたします。
現状、TPP11における牛肉セーフガードに関する規定は、TPP11に未加入のアメリカを含めた発動基準であり、これに今般の日米貿易交渉で締結をされたセーフガードが追加になることで、結果的に日本に向けた牛肉に対するセーフガードの発動基準は緩くなり得るとの御指摘もあります。
農林水産大臣に今般の牛肉セーフガード規定の評価を、西村経済再生担当大臣にTPP11諸国とのセーフガード条項をめぐる外交交渉方針についてお尋ねをいたします。
今回、米国と二国間協定を結ぶことは、米国をTPPに戻すという従来の政府方針とは矛盾をいたしません。TPPのような多国間協定においても関税分野は二国間交渉が基本であり、今回の日米貿易協定の交渉結果は、言わば来るTPP米国入りに向けた関税交渉の基礎をつくったとも言えるからであります。
米国を含めた形でのTPP締結は、米国を含めたサプライチェーン構築を通じ、とりわけ中小企業の多い我が国自動車部品メーカーなどにもメリットとなります。米国のTPP復帰に向けた交渉方針について、西村経済再生担当大臣にお伺いをいたします。
冒頭申し上げましたとおり、自由貿易の旗手たる日本が、保護主義と対峙をし、自由貿易の持つ協調の精神を世界に発することは、日本が国際社会において果たす使命であります。政府は、この日米貿易協定を自由貿易推進の一里塚としていただきたい。
最後に、総理に、米国をTPPに組み込むことが世界経済に与える意義と、今後、世界の自由貿易、その価値である多国間協調主義を守り、その推進役として活動する決意をお伺いをいたします。
分断が叫ばれる世界、その背景の一つが貿易紛争であります。米国、中国という大国の間に位置する太平洋の大国である私たち日本には、自由貿易の価値を具現化し世界の海をつなぐ使命がある、そのことを再度強調いたしまして、私の質問を終わります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君)
矢倉克夫議員にお答えをいたします。
日米貿易協定を受けた農業支援についてお尋ねがありました。
米国との貿易協定において、農林水産物については、過去の経済連携協定で約束したものが最大限であるとした昨年九月の共同声明に沿った結論が得られました。とりわけ我が国にとって大切な米について、関税削減の対象から完全に除外しました。さらには、米国への牛肉輸出に係る低関税枠が大きく拡大するなど、新しいチャンスも生まれます。
それでもなお残る農家の皆さんの不安に対しても、しっかり向き合い、万全の対策を講じてまいります。年末に向けて、与党のお力も借りながら、総合的なTPP等関連政策大綱を改正する考えです。
先日編成を指示した補正予算も活用し、新たな市場の開拓や、条件不利地や中山間地域等を含めた生産基盤の強化などに取り組むことで、今回の協定を、全国津々浦々、我が国経済の更なる成長につなげてまいりたいと考えています。
自動車、自動車部品の関税撤廃についてお尋ねがありました。
日米貿易協定では、自動車、自動車部品について、単なる交渉の継続ではなく、更なる交渉による関税撤廃を明記しました。こうした今回の交渉結果については、我が国の自動車工業会から、自動車分野における日米間の自由で公正な貿易環境が維持強化されるものであるとの評価が発表されているものと承知しております。
具体的な関税撤廃時期については今後交渉を行うこととなりますが、自動車は、現在、電動化、自動走行による大変革期にあり、様々な部品構成やその重要度も変わっていく可能性が高いことなども踏まえ、このような状況を見極めながら、今後、最善の結果が得られるよう、しっかりと協議を行っていく考えです。
米国をTPPに組み込むことの意義及び自由貿易推進に係る決意についてお尋ねがありました。
TPP11協定のハイスタンダードでバランスの取れた二十一世紀型の新たな共通ルールを広めていくことは、世界の安定と繁栄に大きな意義があります。そうした観点から、我が国としては、米国を含めてできるだけ多くの国・地域がTPPに参加することが最善であると考えております。
他方で、TPP11、EUとのEPA、さらには日米貿易協定を合わせれば、世界のGDPの六割、人口十三億人を超える巨大な市場が日本を中心として構築されることとなります。経済のグローバル化によってサプライチェーンが世界ワイドで広がる時代にあって、オンリーワンの技を持つ我が国が誇る中小・小規模事業者の皆さんにも世界を舞台に大きなチャンスが広がります。
また、現在、国際貿易をめぐっては、米中の貿易摩擦を始め世界的に懸念が高まっていますが、公正なルールを共有する巨大な自由貿易圏が誕生する意義は国際的にも大きいと考えています。
日本は、これからも自由貿易の旗手として自由で公正な経済圏を世界に広げていくため、主導的な役割を果たしていく決意であります。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
〔国務大臣江藤拓君登壇、拍手〕

○国務大臣(江藤拓君)
矢倉議員の御質問にお答えいたします。
産地パワーアップ事業及び畜産クラスター事業の維持及び更なる充実についてお尋ねがありました。
農林水産省としては、総合的なTPP等関連政策大綱を見直して両事業を充実させることにより、生産基盤の強化やコスト低減による生産性向上を図り、輸出にも対応できる強い農業を構築していく考えであります。
次に、今後のCSF対策についてのお尋ねがありました。
CSFの対策については、本年十月に防疫指針を改定し、予防的ワクチン接種を開始するなど、対応を強化してまいりました。
予防的ワクチンの接種を開始した後も、それで安心ではなく、いまだワクチンが開発されていないASFの侵入のリスクが高まっていることを踏まえると、飼養衛生管理の徹底が引き続き防疫の基本であり、現場への周知徹底や丁寧な指導を実施してまいります。加えて、ヘリコプターも活用した経口ワクチン散布や捕獲強化などの野生イノシシ対策、水際対策など、国が主導して都道府県と連携し、あらゆる対策を総動員してまいります。
最後に、日米貿易協定における牛肉のセーフガードについてお尋ねがありました。
牛肉のセーフガードは、二〇二〇年度の米国への発動基準数量を、二〇一八年度の輸入量二十五万五千トンより低い二十四万二千トンに抑制したところであります。
この二十四万二千トンに二〇一八年度のTPP11発効国からの輸入量三十六万四千トンを加えると六十万六千トンとなり、二〇二〇年度のTPPの発動基準数量六十一万四千トンとの差が八千トンあることから、TPPの範囲内とすることができたと考えております。
なお、今後のTPP11関係国との協議につきましては内閣官房において適切に判断されるものと考えておりますが、私としては、生産者の不安に寄り添い、できるだけ早期に協議する必要があると考えております。(拍手)
〔国務大臣西村康稔君登壇、拍手〕

○国務大臣(西村康稔君)
矢倉克夫議員からTPP11諸国とのセーフガードに関する今後の交渉についてお尋ねがございました。
TPP11の発効後の運営等についてこれから具体的に話し合う予定であり、また、いまだ国内手続を完了していない国ができるだけ早期に締約国となるよう働きかけているところであります。
本件については、いずれかの時点でTPP関係国と協議を開始する必要があると考えておりますが、TPP11も発効から間もないこともあり、また、日米貿易協定の発効後の実際の輸入の状況などを見極めた上で、関係国と相談を行うこととしたいと思います。
また、この旨を関係国に伝えているところであります。オーストラリアのバーミンガム貿易大臣にも私からこの旨伝えております。
また、米国のTPP復帰に向けた交渉方針についてお尋ねがございました。
今回の協定では、日本の農林水産品については、米や林産品、水産品、さらにはTPPワイド関税割当て対象の三十三品目など、多くの品目で譲許しておりません。また、投資、サービス、ルール等については、デジタル貿易ルール以外は今回の合意には含まれておりません。米国にとってはTPP12の際に得られていた内容で、本協定では得られていないものが残っており、米国がTPPに戻るインセンティブがなくなったわけではないと考えております。
TPPのハイスタンダードでバランスの取れた二十一世紀型の新たな共通ルールを世界に広めていくことは、国際経済社会の安定と繁栄に大きな意義があります。そうした観点から、我が国としては、米国も含めてできるだけ多くの国・地域がTPPに参加することを期待しております。(拍手)

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