コロナ禍でヘイト懸念 不安に寄り添う支援やメッセージを

2020-05-18

毎日政治プレミアにインタビュー記事が掲載されました。
新型コロナ禍の中でいかに分断を回避するか、立法に関わったヘイトスピーチ解消法の経緯とともに。
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200515/pol/00m/010/001000c
(有料記事のため一部掲載になっております。以下に、全文を貼り付けます)
インタビューは一回だったのですが、記者さんからの提案により、掲載は二回にわけることになりました。次回掲載日は未定ですが、表現の匿名性とネット環境での被害者保護を語っています。
<以下、本文>
コロナ禍でヘイト懸念 不安に寄り添う支援やメッセージを
 世界中がコロナ禍に苦しむ中、差別的、ヘイト的な言動が広がることを懸念している。実際、欧州でアジア人が暴言を吐かれたり、危害を加えられたりする事案が発生し、日本でも3月に横浜中華街の店に脅迫状が届くなど許されない出来事が起きている。緊急時には不安をかきたてられ、差別意識が顕在化しやすくなる。ヘイト行為は社会を分断してしまう。国民が一丸となって危機を乗り越えようとしているときこそ、不安に寄り添う支援やヘイト解消に向けた強いメッセージの発信が必要だ。
 ヘイトスピーチなどは国籍に関係することが多い。現在はさらに、宅配業者の方が除菌スプレーをかけられたり、医療関係従事者が心ない対応をされたりなど、国籍と関係ない「差別」も広がっている。大きな要因は不安が広がっていることだろう。漠然とした不安感は自分と違うものに対しての偏見、差別につながり、その不安を目に見える異質なものに対してぶつけやすくなってしまう。このような根源的なことから考えていく必要があるのではないか。
 差別やヘイトをなくすのは難しい。言論、表現の自由の問題も関わる。私は、5年ほど前に在日コリアンの方々と懇談する機会があり、「殺せ、殺せ」と言われ、夜も怖くて1人で歩けないというようなお話を伺った。生まれも育ちも日本なのに恐ろしい目に遭っている現実を聞かされ、衝撃を受けた。なんとかしようとこの問題に取り組み、2016年には「ヘイトスピーチ解消法」を議員立法で成立、施行させることにつなげた。憲法が保障する表現の自由に配慮し罰則は設けなかったが、「不当な差別的言動」を「差別意識を助長し又は誘発する目的で、公然と生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知したり、著しく侮辱したりするなど地域社会から排除することを扇動する」ことと定義。国に差別的言動の解消に取り組む責務を課す法律となった。

 ところが、この法律は当初、ヘイト規制の反対派からも賛成派からも批判を浴びた。反対派からは言論や表現の自由などを理由に反発され、賛成派からは罰則を設けるよう求められた。表現の自由が民主主義を支える基盤として保護されているのは、相手に対抗言論を許すという環境があるからだ。ヘイトデモやヘイトスピーチは時に言いっぱなしで相手を攻撃する。「言論には言論」という原則から外れることがあり、規制されなければならない対象といえる。しかし、罰則にあたっては憲法上の課題があった。特に、罰則を設けるには基準が必要となるが、怖いのはその基準解釈を国家権力がする、ということ。これは、表現内容による規制権限を権力に一般的に与えることを意味する。本当にそれが国民権利保護に資するのか、それは、ヘイトスピーチを罰するという次元の話とは異なる。そのような観点から解消法が罰則がない理念法となったことを理解してほしい。
 もとより、私は解消法の理念のもと地域自治体が独自に取り組むことは素晴らしいと思う。例えば、川崎市は公共の場所でヘイトスピーチを繰り返した者に刑事罰を科す人権条例を7月から全面施行する。勧告、命令、氏名公表と段階を踏み、それでも繰り返すようであれば捜査機関に告発できる内容で、起訴され有罪と司法が判断すれば最高50万円の罰金が科せられる。在日コリアンの方々が多く住む地区があり、ヘイトスピーチが比較的多くなされている事情を踏まえ、地域独自に解消法を踏まえて取り組んだ結果だ。
解消法が理念法であることは別の積極的な意味を持つ。私も国会答弁で申し上げたが、罰則では最終的にヘイトスピーチを根絶できない。ヘイトスピーチのない社会をつくる、その実効性を確保する意味では、ヘイトは許せないという大衆のうねりをつくる必要があり、解消法は、許されないものを排除する社会を、国民全般がこれをつくっていこうということを主体的にうたっていくという戦いの宣言だ。罰則を設けると、罰則対象かどうかが焦点となって行政や司法の問題に収れんしてしまう可能性があった。この理念法は、多くの人が考えるきっかけであり、差別やヘイトをなくすための、社会全体で取り組むべき指針でなければならない。政治家には、理念法の特性を生かして、みんなが根源的なことを含めて議論できる環境を作っていく使命がある。
 コロナ禍で不安が蔓延している今、政治に何が求められているか。ヘイトスピーチ、ヘイトデモは、特に緊急事態の中では先鋭化しやすい。なぜなら、皆が不安だからだ。だからこそ、不安を和らげる生活支援をしっかりやっていく必要がある。そして社会を「分断」してはならないことも重要だ。分断は差別やヘイトを助長する可能性がある。
 今回、経済対策に盛り込まれた「国民一律10万円給付」を公明党が強く主張したのも、社会を分断させないというのが大きな狙いだ。限定された世帯のみに30万円を給付する当初の政府案では「苦労しているのに、なぜ、あの人はもらえて自分はもらえないんだ」という感情にどうしてもなる。政府の形式的な切り分けによって不公平感が強まれば、より負の感情が強まり、攻撃的になってしまう。
 政治家は、与野党を超え、「大丈夫だ」と思ってもらえるような政策を積極的に打っていくことが重要だ。そして「励ましあって進んでいこう」というメッセージを強く発信し、ひとの内側にある差別感情を乗り越えて連帯していくという「精神風土」のようなもの目指していかなければならない。
◇プロフィル◇
矢倉克夫(やくら・かつお)
参院議員、弁護士
1975年生まれ。法律事務所勤務、経済産業省職員などを経て2013年参院選で初当選。農林水産政務官などを歴任。参院埼玉選挙区、当選2回。