2014-11-12
○矢倉克夫君
公明党の矢倉克夫です。
本日の議題であります憲法と参議院につき、一言述べさせていただきます。
二院制は、一院だけでは満たすことのできない欠点を補完し、一院がともすれば陥りがちな欠陥を補正し、議会の機能をより適切なものにしようとするためにある。我々公明党の大先輩であり、参議院議員を四期務められた峯山昭範氏が、著書「参議院」において冒頭、記す言葉です。この一院制の補完、補正と議会機能の適切化を果たすに当たり、参議院はいかなる機能を有するべきか。まず最も重要な視点は、国会の行政監視機能を担うものこそ参議院であるという点です。
我が国憲法は議院内閣制を採用します。行政、政府との連帯を重視する議院内閣制においては、ともすれば行政監視という議会が本来果たすべき機能が埋もれてしまう危険性があります。この回避を図ることができるのは、政府と政治的一体性を求められる衆議院とは違う独自性を有する参議院です。
この行政監視のうち、中心となるものは何か。それは、行政の組織及び人事に対する統制であると考えます。これは、弁護士事務所から出向した任期付公務員として霞が関で働き、民間から霞が関全般を見る幸運に恵まれた私の経験から申し上げる結論であります。
組織について。行政組織は、ほっておくと増殖するものです。ニーズがあって生まれたはずの組織が、時代の変化にかかわらず存続し、いつしか存在自体が目的となることがあります。また、人事について。公務員は全体の奉仕者であり、その人事は職務遂行を通じてのみ適性を測るべきものです。しかし、仮に人事が単なる慣行により行われてしまうことがあれば好ましくありません。現行のキャリアシステムによる公務員の人事体系はその危険性を有しているものです。
この組織と人事の正しいやり方がなされているか常時監視をすることが行政監視の要であり、そのようなものであるとの観点の下、政府と官僚組織をつくる衆議院と、それを監視する参議院という役割論を深めることを強くお訴えしたいと思います。
次に、この行政監視という課題と根は同じものですが、別途考えなければいけない点として、官僚肥大社会への歯止めという観点があります。これは、我が国政治、行政の根本問題であり、政治主導はいかにつくるかという点でもあります。
その象徴というべき課題は、委任立法の増大です。委任立法そのものは、いわゆる行政国家に求められる専門性、機動性等により避けられないものです。しかし、安易に法の運用が官僚に丸投げされることを是認しては、官僚機構に対する国会の監視が十分になされているとは言えず、議会制民主主義の原理が疑われる事態に陥りかねません。
この委任立法の増大という現象がもたらすリスクは、災害等の緊急時においてより顕著に現れます。なぜなら、災害時は国民の生存権確保のため政府に非常権限が認められる余地があり、それが委任政令という形で人権の制約を伴うこともあるからです。とりわけ、私権の制限と併せ、人権保障のために行政をどのように統制していくのかが問題の本質となります。
平成二十四年七月三十一日に発出された中央防災会議・防災対策推進検討会議最終報告は、自然災害による国家的な緊急事態への対応の在り方について憲法審査会でも議論をされるよう求めております。これら平時と緊急の場合に切れ目なく、肥大化する行政に対する歯止めとなる最後のとりでとなるべきが行政監視機能を有する参議院と考えます。そのために、特に非常時に対応するためにも、通常時から常時監視をする仕組みをつくらなければなりません。
この点、信州大学の田中祥貴准教授は、参議院の憲法保障機能という新たな視点から、災害対策基本法第百九条第四項にある議会拒否権制度の拡充を提唱しており、注目されます。国会でもこれを議論すべきかと思います。
さらに、参議院の決算機能も重要であります。
これに関し注意しなければならない点は、単純に衆議院は予算、参議院は決算という役割を分けることには慎重であらねばならないという点です。なぜなら、決算審議の目的は予算審議へのフィードバックであり、予算審議、決算審議のどちらも税金の使い方の議論であって、この二つを一連のものとして議論しなければ国会によるチェックは機能せず、その点において衆議院も参議院も同じであると考えるからです。
財政再建が急務である我が国にとり、決算の目から予算を見ることは重要です。議員の任期が短く解散もある衆議院は決算の目を持って次年度予算に直結する短期的事項を見る一方、参議院は決算の目を持っていかに数年度にわたる長期的検討を要する事項に重点を置いた審議を行うか、この点が重要であり、例えば年金制度、特別会計制度など制度を議論すべきものと考えます。
以上、行政監視、災害など緊急時も含めた官僚肥大社会への歯止め、長期的観点に立った決算、この三点が我が国憲法における参議院の役割のうち主なものと考えます。
最後に一言申し上げます。
参議院の最大の責務の一つである行政監視とは、すなわち国民主権の徹底です。政府及び官が国民一般の利益と異なる国家の利益や官独自の利益を追求することを防止し、公務員を全体の奉仕者たらしめることこそ行政監視の府として参議院に求められるべきものであり、参議院は国民主権を徹底させることをその最大の責務と考えるべきと思料いたします。
以上の点を強調いたしまして、意見表明とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。