201回 法務委員会

2020-06-02

○矢倉克夫君
 公明党の矢倉克夫と申します。
 三人の参考人の先生方、貴重な御意見、大変にありがとうございました。
 ちょっと私からは、まず、松原参考人もおっしゃっていただいた因果関係による限定というところに絡めてなんですけど、ある意味、外部事情がないことによって行為の危険性がないというふうに判断する場合と、外部事情がないことによって因果関係がないという場合に判断することのちょっと区別を少しだけ最初教えていただきたいなと思って、質問させていただきたいと思います。
 まず、今井参考人。レジュメの方で、今回の五号について、被害車両との速度、相対的な速度要件の関係で、危険性の欠如という、行為の危険性の判断の要素として考慮されたわけでありますけど、この実行行為の危険性が外部の事情によって影響するということの理論的な部分の改めての御説明いただきたいのと、例えば、今言ったような外部事情がないことで行為の危険性がないというふうに判断される場合とはまた別に、レジュメの方で、AとかBとかのこの不注意とか、BとかCとかの不注意によって因果関係がないというふうに認定されている場合もあるんですけど、ここのこの違い、区分けの違いみたいなことをちょっと、概念的でもいいので教えていただければなと、まず思いました。

○参考人(今井猛嘉君)
 御質問ありがとうございました。
 まず、五号の理解でございますけれども、委員がおっしゃるように、被害車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行しているというのは、外部事情と言うことも可能です、加害車両との関係では。しかし、加害車両、被害車両が同じ場に設定された場面を走行していることでありますので、加害車両自体がこの要件を満たしていなくても、その被害者の関係では危険であるという認定は十分に可能だと思いますし、そのような考えが五号で取られているのだと思います。
 それから、BとCが、私のレジュメで書きました事例において、BやCが、特にCが因果関係が切れる場合があり得ると申し上げましたのは、先ほども報告いたしましたけれども、例えば、高速道路で走行中、前方にBという車両が停止しているということが十分認識できて回避余地も十分あったにもかかわらず、脇見等で突っ込んでしまった、そこでCが死んだような場合には、C自身において、Bとの衝突を回避可能であり、結果、回避可能性があったということで因果関係が切れるのではないかと申し上げたところです。
 ですから、ここの事情を変えることによっては委員がお考えになっているように因果関係が切れない場合も出てくるのかもしれませんが、私の事例では切れる場合を申し上げた限りでございます。

○矢倉克夫君
 ありがとうございます。
 じゃ、松原参考人にも、実行行為者の事情以外の事情で危険性がないという場合と因果関係が切れるという場合の違いをまた改めて教えていただければと思います。

○参考人(松原芳博君)
 四号の場合には、自らが高速というか、危険速度なので、まあ行為自体の危険が直接問題になると思うんですね。それに対して、五号の場合には被害者車両、そして六号の場合には第三者車両も含めた道路上の走行ということで、言わば環境的な危険というものが問題になり得るところだろうと。
 まず、お答え一つ目ですが、行為自体の危険というのは実行行為性の限定が掛かってくると思いますが、行為後の事情、特に第三者車両の態様、速度といったものは被告人の行為自体の属性ではないので、これは実行行為性の問題ではなく、因果関係の判断の要素になってくると思います。そして、その上で、第三者車両が著しい不注意でぶつかった場合、今井参考人が言ったように、これは因果関係が切れるんだろう。また、そうではなくても、著しい過失ではなくとも、関係車両が全て低速であった場合には、これは私は、六号の予定している危険が結果に現実化したわけではないので、六号の罪としての因果関係は認められないんじゃないのかということを付け加えさせていただきました。
 以上です。

○矢倉克夫君
 ありがとうございました。
 松原参考人に改めて、じゃ、被告人の行為の属性によった場合か、外部事情か、その行為の属性によって影響するという違いと、そうでない事情で結果は処罰必要がない、というのが因果関係の切除というところ、そこの区分けということでよろしいわけですよね。

○参考人(松原芳博君)
 補足いたしますと、外部事情でも行為時に既に存在していた事情は言わば行為の一部と見ることも可能なので、外部事情であっても行為時に存在している場合には実行行為性の要素になることもあり得ますが、外部事情であり、かつ行為後の場合には、これは実行行為の要素とはできないので、因果関係の判断要素とすべきだと考えます。

○矢倉克夫君
 じゃ、その上で、松原参考人に、この法律の評価なんですけど、改めてですけど、この東名の事案とかの裁判については、多分裁判所もこの事案はやはり処罰に値するんだという思いもあった上で、ただ、結果的には、論理、理論構成として、実行行為から除外された行為との間の因果関係を結論を想定した上で認めるような事態になったということでありますけど、今回の法律によって実行行為が新たに停止となることで、その行為との、属性との因果関係というのがより明確に判断し得ることになったという点では、この問題になったような事案についても罪刑法定主義にも反しない形でしっかりと妥当な判断がし得る法律となったという評価でよろしいでしょうか。

○参考人(松原芳博君)
 まさにそのとおりで、既に六号があったら、今回の事件は間違いなく六号で、停止させる行為を実行行為にして文句なく因果関係も認められたと思います。ところが、無理に四号で罰しようとしたために、因果関係がかなり緩んでしまって、これは別の事件に悪影響を及ぼさないかなと、一つの先例になってしまうので、そういうことを危惧しています。
 したがって、六号が作られたことは、因果関係の範囲を明確化する意味でも非常に有益なことであるというふうに思います。

○矢倉克夫君
 ありがとうございます。貴重な御意見、大変にありがとうございました。
 後ほど両先生にまたお伺いする時間があればと思うんですけど、あと柳原参考人にお伺いしたいと思います。
 本当に、被害者や遺族の方に寄り添われながら今まで活動されていたあの記事も読んで、改めて感銘を受けたところであります。
 参考人にお伺いしたいんですけど、いろんな悪質なドライバーを見逃さない、そういったことに対しての御提言、一つ一つ非常に重要だと思いますし、それらはまたしっかり参考にしながら、我々も実現に向けていろいろ動いていきたいなと思い、それに併せて、また別の視点というか、被害者の方々への具体の支援というところについて、自動車事故に遭った方であるとか、そういう方々への支援ということで、更にこういう部分をもっとやるべきだという御提言みたいなのがありましたらおっしゃっていただければと思いますが。

○参考人(柳原三佳君)
 被害者の方々、本当にその一部の方々が苦しい中で立ち上がって、会を立ち上げたり、いろいろな活動をしてくださっています。でも、国としてそういう人たちへの支援というのは具体的にはなくて、例えばその金銭的な部分ですとか、いろんなその援助という部分ではなく、皆さん本当に自分で今それをやっていらっしゃるというところがもうほとんどだと思うんですね。
 ですから、やはり体験した人でなければ分からないその細かな御苦労ですとか改正点とか、そういうふうなものを是非積極的にもう吸い上げていただいて、具体的にどこをどういうふうに変えていけばいいのかというのをもっと国の方として積極的にそういう方々へアプローチしていただければいいのではないかなというふうに思います。

○矢倉克夫君
 ありがとうございます。
 現場にしっかり寄り添って、私たちもそういう声、様々いろいろ聞いておりますけど、更に活動を加速していきたいなというふうに思っております。
 また、今井参考人と松原参考人にお伺いしたいと思うんですが、先ほど今井参考人の方から周辺的なものについての今後の対応ということのお話もちょっとあったところであります。そちらの具体的なことをもうちょっと教えていただきたいなというところをまず質問させていただければと思います。

○参考人(今井猛嘉君)
 私の意見として申し上げたことになるのですけれども、まず第一は、これから免許を取ろうとする方の交通教育であります。
 道路というのはみんなの公共用物ですので、みんなが、まあ日本的に言うと、譲り合ってルールを守って運転するのが当たり前で、免許の取りたてのときは多くの人がそうするんですけれども、慣れてくると緩んでしまうというのが残念ながらございます。ですので、再教育を含めて、免許の再更新等のときにしっかりと、途端に凶器となり得る大変なものを扱っているんだという認識を強化していただくような教育が必要だと思います。
 その際には、これだけ重たい刑罰が予定されていますという言い方が一つあるんですけれども、車の中では、各国の研究見ますと、血圧が上がったり、あるいはふだん冷静な人も気質が変わるというふうなことが科学的にいろいろ出ています。ですから、先ほど柳原参考人からもありましたけれども、法医学者の知見、あるいは交通心理学の方の知見を含めて、トータルに危険でない走行を多くの人ができるような施策を打つということがとても大事だと思っております。

○矢倉克夫君
 ありがとうございます。大変に参考になりました。ありがとうございます。
 松原参考人にお伺いしたいんですけど、これ、五号、六号の関係で実行行為を運転に限定する必要はないのではないかというような問題の提起もございましたけど、もう少し詳しく、具体としてどういうことを想定された上で考えなければいけない課題みたいなのがありましたら、また教えていただければと思います。

○参考人(松原芳博君)
 現行の四号ですと、これは運転者の速度が規定されているので、これは運転しないとこの危険はつくり出せないんですが、五号の場合には被害車両の速度が規定されているので、こちらの方は車で割り込まなくても、例えば石を投げ込んだり、あるいは生身でちょっと飛び出しては引っ込むということでも重大事故は起こせるんですね。つまり、五号、六号に関する限り、まあ六号は高速道路上なので車以外の方法は限定はされるんですけど、でも、五号、六号は、運転以外の方法でも重大な危険はつくり出せるのは確かなんですよ。
 その意味で、一案としては運転に限定しないという立法があり得ることはあり得る。ですが、私は、それは少し犯罪の類型として違ってきて、いわゆる交通事故の延長とはもう全く違う別個の犯罪行為なので、そういうのを捉えたければ、やはり、できたら刑法に別の規定を設けるべきだし、現在も往来妨害致死傷罪というのがあるので、それでかなり賄えるので、その意味では、五号、六号で何で運転に限定しているんだという質問はあり得るだろうけど、私は、最終的にこの法案の運転行為に限定したという判断は賢明であったというふうに考えております。

○矢倉克夫君 ありがとうございました。
 本当にお三人の先生方の御意見、大変貴重でありました。しっかりまた引き続き御指導いただいて、反映できるところはしっかり頑張りたいと思います。
 ありがとうございました。

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