2022-03-23
○矢倉克夫君
公明党の矢倉克夫です。
会派を代表し、憲法に対する考え方との議題に関し、本日は新たな課題として、まずデジタル社会と憲法について、そして参議院として特に重要である緊急集会について述べさせていただきたいと思います。
まず、デジタル社会と憲法について。
急速なデジタル技術進展の中、人権や民主主義という憲法価値がどう守られるかが議論になっております。背景に、いわゆるGAFAに象徴される巨大プラットフォーマーが情報分野における新たな統治者として存在感を増していることが挙げられます。
特に、これらプラットフォーマーによりユーザー個々の移動や検索の履歴、思考、関心事項、その他の個人情報がプロファイリングされ、その特定された個人情報を基に利用者の関心度が高いものを購入させるマイクロマーケティングが行われているのみならず、ネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴をアルゴリズムにより分析し学習を重ね、個々のユーザーが見たいであろうと推測される情報を優先的に表示させ、逆にユーザーの考え方に合わないと推測される情報からは遮断させるといったことがなされていることも指摘をされております。結果、ユーザーは自身の考え方や価値観のバブルの中に孤立してしまうフィルターバブルに置かれる。
これらは意思形成過程に大きな影響を及ぼすものであり、憲法上の人権の観点から見た場合、第十三条前段の個人の尊重の観点、とりわけ十三条後段の幸福追求権に基づくプライバシー権や個人情報保護法制も併せ考えた場合における情報自己決定権、自己の個人情報の開示及び使用について原則として自ら決定する権利への抵触の懸念が出ています。また、十九条の思想及び良心の自由の規定においては、自律的、自発的な意思形成過程への阻害要因となる可能性もなしとしません。
さらに、AIによる採用面接への振り落とし等、プロファイリングによる差別は十四条の関係でも議論し得ます。この人権の観点に加え、十五条の選挙権、二十一条の言論の自由という民主主義社会形成の基本となる人権の行使に対し、今後更に発展するであろう巨大プラットフォーマーがどのように影響を与えていくのか、今の我々が想像も付かない問題点も出てくる可能性もございます。
一方、では、憲法の基本的人権の規定を改定し対応すべきかについて、巨大プラットフォーマーの出現という民間権力との関係を人権一般の普遍的課題として捉えるべきか否か。そもそも、日本国憲法のように規律密度が相対的に薄い成文において、この問題をあえて明文で規定すべきか否かなど、様々考慮すべき事情はあるかと思います。憲法レベルではなく法律による規制でもいいのではないかという御意見もあるかと思います。今後、プラットフォーマーがどのような発達や変貌を遂げるかを見極めつつ、慎重に議論を進めるべきと考えます。
次に、参議院の緊急集会について意見を申し述べます。
まず、日本国憲法が参議院の緊急集会を認めていることは、参議院が衆議院と同じ全国民の代表であることを表したものであるということをまず強調いたします。
その上で、近時の甚大な自然災害の増加や安全保障上の緊急事態の発生可能性の増大を踏まえ考えたとき、今後、参議院の緊急集会の意義はますます高まることが考えられます。私たちは、院の自律性に関わる問題として、この参議院の緊急集会の開催の要件や手続、権能や効果等について更に議論を深めていく必要があります。
特に、参議院の緊急集会の開会要件については、憲法は明文的に、衆議院が解散されていること、国に緊急の必要性があることの二つを規定します。一に、このうち、近時、解散による衆議院の不存在と、その任期満了による不存在についての質的な差異がなく、憲法の規定はあくまで衆議院の存在がない例として解散を定めたにすぎないとする有力な説もあります。この説によれば、解散のみならず任期満了時も衆議院が院を構成できない場合として参議院の緊急集会を開催できることとなります。これは、大規模自然災害等において衆議院の任期を延長できるかという議論にも影響を与えるものですが、傾聴に値すると考えます。
次に、後者について。国に緊急の必要性があることの判断は内閣のみに専属するのか、また緊急集会による参議院の承認を衆議院が次の国会の開会後十日以内に承認しなかった場合の効果をどのように考えるのか。特に、自衛隊法第七十六条に基づく自衛隊の防衛出動の承認の場合、仮に不承認となったときの影響、予算の執行などとこれは違うものがあるわけであります。
どう考えるかなど、今後、参議院の緊急集会の開会における要件や手続、権能等は更に議論すべき課題は多く、これらについても参議院の院の自律権の問題として真摯に議論すべきことが重要であることを述べ、党を代表しての意見表明といたします。