世界標準ルールとしてのTPP(TPPその3)

2016-12-02 メルマガ

矢倉かつおです。

引き続き、TPPについてです。

アメリカのトランプ次期大統領が、大統領就任時にTPPから「離脱」すると宣言しました。

なぜか。

今のところトランプさんが、TPPはアメリカに「利益」をもたらさないと判断しているからでしょう。

トランプさんの頭にある「利益」とは、簡単にいえば、二国間の経済的な「勝ち負け」だと思います。確かに、前回および前々回メルマガで指摘したとおり、日米間でいえば、TPPは日本にとって、より有利です。

では、なぜオバマ政権下のアメリカは、そのTPPを推進しようとしているのか。それは、TPPの中に、トランプさんと異なる意味での「利益」「価値」を見いだしているからです。

前回および前々回と、複数国間にまたがり同じルールで関税削減を実現するというTPPの特徴をあげました。

TPPには、もう一つ、より重要な特徴があります。それは、「モノ」だけでなく「データ(情報)やサービス」といった「形のない資産」の動き(新しいところでは電子商取引など)も含め、経済全体の動きを公正にする基本ルールであるという点です。

海外でモノをつくる、商売をするということは大変なことです。

例えば、自社製品の「にせ物」(侵害される権利に応じ「模倣品」、「海賊版」などといわれます。)が横行し、本来の価格の100分の1以下で販売されている。こんなことは日常です。利益は奪われ、ブランドイメージも崩れます。

OECD(経済協力開発機構)によると、世界の貿易総額の2.5%にあたる5000億ドル(50兆円以上)は、こういった「にせ物」の取引であり(国内分を含めるともっと巨額です)、しかも、その利益の多くは組織的犯罪グループに流れたりします。

これは、「知的財産」の問題です。

また、「この国で仕事をしたいのなら、製品に関する大事な技術をこちらによこしなさい。」そんな無茶をいわれることもしばしばです。

これは「投資」の問題です。

特に今、世界で問題となっていることは、国が支配権を事実上有する「国有企業」に対する過剰な優遇問題です。

一部の国は、「国有企業」に対し不透明な形で資金援助等をしたりするなど、公正な競争をゆがめたりします。こうなると、その国でビジネスを行う企業は、事実上、国を相手にして競争しなければいけなくなります。巨象と闘うようなものです。

上記のような問題に正面から向き合い、あるべきルールについて高いレベルで幅広く合意した「国どうしの約束」は、現在のところTPPが初めてです。

オバマ現アメリカ政権と日本政府が共有している「利益」「価値」とは、このTPPを成功させ「世界基準」にしよう、全ての企業が世界各地で安全・安心な経済活動をすることを可能とする「ルールのひな形」にしよう、という戦略的な意図です。

単なる二国間の「勝ち負け」の問題ではなく、ともに栄える発想に立たないといけません。

こう考えたとき、「トランプさんがTPP『離脱』を宣言したら終わりなのだから、いくら日本で審議しても無駄だ」といった議論が、いかに主体性のない無責任な議論か、明らかだと思います。

日本は、このTPPの戦略的意義を含め、TPPがいかにアメリカの「利益」にもつながるか、トランプさんに粘り強く訴え、進めていかなければいけません。

前々回のメルマガでもお伝えしたとおり、トランプさんの「離脱」発言は、米国が各国に約束した国内手続きを「しない」(議会に提出を「しない」と言う趣旨かと)という趣旨に過ぎないと考えられ、日本は、ともにTPPを進めた国としてトランプ次期米国大統領に対し、国内手続きを「する」ように説得する責任があります。

むしろ、トランプさんが大統領に正式に就任してはじめて交渉は始まります。

トランプさんが仮に就任時に離脱を宣言したら、それはTPP発効の「終わり」ではなく発効に向けた「始まり」である、ということは改めて強調したいと思います。

次回のメルマガにて、「農業とTPP」について配信します。TPPについては次回で最終です。いつも長文となりすみません。よろしくお願い致します。

 

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