(フォーカス人権・自治)後を絶たないヘイトスピーチ
2025.10.31 07:00(1か月前) ブログメディア掲載情報 |矢倉かつお

特定の民族や国籍の人たちへの差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)が後を絶たない。近年はSNSで差別的な投稿が拡散し、選挙運動に名を借りたヘイトスピーチも問題となっている。ヘイトスピーチを巡る国内の状況を解説するとともに、外国人に対する差別の問題に取り組んできた師岡康子弁護士に話を聞いた。
■デモは件数減るも依然続く/SNSへの投稿、深刻化
一般にヘイトスピーチとは、特定の国の出身者であることや、その子孫であることのみを理由として日本社会から追い出そうとしたり、危害を加えようとしたり、著しく侮蔑したりする内容の言動を指す。日本では特に2010年代に入ってから、在日コリアンらに対するヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動が全国各地で公然と行われるようになり社会問題化した。
公明党は14年9月、「ヘイトスピーチ問題対策プロジェクトチーム」を設置し、デモが頻発した地域での視察や有識者からの意見聴取を行いながら対策を検討。公明党の要請を受け、政府が15年度に初めて実態調査を実施した結果、12年4月から15年9月までの約3年半で1152件ものデモ・街宣活動が確認された。
対策の必要性が高まる中、公明党のリードで16年に成立・施行したのが「ヘイトスピーチ解消法」である。「不当な差別的言動は許されない」と宣言し、国民は「不当な差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」と明記した、罰則規定がない理念法だ。
この間、国はヘイトスピーチの解消に向けた啓発活動を推進。自治体による条例の制定も各地で進んだ。川崎市では罰則規定を設けた条例を施行している。
法務省によると、こうした取り組みもあってデモは減少傾向が見られるが、依然として続いているのが実情だ。23年以降はクルド人に対するヘイトスピーチが激化するなど、ヘイトの対象が拡大。今年7月の参院選では排外主義的な主張が繰り返され、外国人政策が争点の一つに急浮上した。今月26日には全国各地で移民政策反対デモが一斉に開催されている。
さらに深刻なのは、SNSなどインターネット上にあふれる大量のヘイトスピーチだ。
24年に出入国在留管理庁が在留外国人に対して行った調査によると、ヘイトスピーチを受けたことがある人の割合は12・7%、受けたことはないが見聞きしたことがあるのは31・6%と、合わせて半数弱になる。このうち、ネット上で受けたか見聞きした経験があるとの回答は65・5%に上った【図表参照】。
■来年度、法務省が実態調査へ
法務省はネット上のヘイトスピーチに関する全国規模の実態調査を来年度に実施する方針だ。調査ではSNSに投稿された差別表現を分析するほか、自治体に寄せられた相談内容を収集する。26年度予算の概算要求に関連経費約7000万円を計上した。
同省の担当者は「解消法の施行から10年近くたつ中、状況を検証し、さらなる取り組みの検討に生かしたい」と話した。
■師岡康子弁護士に聞く
■(ネット上の人種差別)悪影響大きく暴力に発展も/削除と責任追及が必要
――なぜヘイトスピーチが強く問題視されるのか。
民族、国籍などの変更が不可能もしくは困難な属性を理由として、「出て行け」「死ね」「ゴミ」といった言動は、人間の尊厳を踏みにじり、心身を害し、平穏な日常生活を破壊する。外国にルーツがある人は、いつ誰に攻撃されるか分からない恐怖の中で苦しい生活を強いられる。
そして差別が広がることで社会が分断され、マイノリティー(社会的少数者)を暴力を振るって排除する動きが生じ、やがてはジェノサイド(集団殺害)、戦争につながる。こうした危険性はナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)など歴史的に証明されており、世界共通の認識で、ヘイトスピーチ抑止を主目的として1965年に人種差別撤廃条約が制定された。
――ヘイトデモ自体は減少傾向にあるといわれているが、ヘイトスピーチを巡る状況はどうか。
2016年に成立・施行したヘイトスピーチ解消法ができてからヘイトスピーチという言葉が国内で知れ渡り、してはいけないことだという認識が広まった。川崎市など各地で反差別条例ができる法的根拠となった。
公明党の国重徹前衆院議員や矢倉克夫前参院議員らの尽力が大きな力となった。14年にはヘイトデモが年間約120回も行われていたが、解消法成立後はデモの届け出時に警察が指導するようになったこともあり、年20件程度に減った。
しかし、なくなったわけではない。解消法にはヘイトスピーチが違法であり禁止すると明示しておらず、歯止めがない。デモと違って警察の許可が要らない街宣活動は減っていないし、最近クルド人や移民を攻撃するデモも活発化してきている。インターネット上には大量のヘイトスピーチがあふれ、さらなる対策が必要だ。
――ネット上のヘイトスピーチによる影響は。
被害者に対する心理的なダメージだけでなく、暴力などヘイトクライム(差別を動機とする犯罪)につながる事案が起きていて悪影響が大きい。
21年に在日コリアンが多く住む京都府宇治市ウトロ地区で放火事件が起きた。犯人は朝鮮人に直接の恨みがないにもかかわらず、ネットニュースのコメント欄に書かれていたデマを真に受けて偏見を強めた結果、犯行に及んだ。
また、今、本当にひどい目に遭っているのがクルド人だ。外を歩いているだけで、写真を撮られ、デマとともにネットにさらされている。
具体例では、100円ショップでクルド人の女児が隠し撮りされ、万引き犯としてSNSに投稿されるケースがあった。しかし、報道関係者が店に確認すると、万引き被害は起きていない。ヘイト動画を毎日チェックしている、女児の姉で中学生の少女が発見した。こうした攻撃に遭うことがどれだけつらいか、自分だったらと想像してほしい。
――対応状況は。
対策としてはヘイト投稿の削除と投稿者への責任追及が必要だ。まず削除することは被害の拡散防止のためには不可欠だが、投稿を削除しても、同じような投稿は繰り返される。止めるには投稿者に責任を取らせることが必要だが、ネット上のヘイトスピーチはほとんどが匿名であり、特定するためにはプロバイダーに対する裁判を起こさなければならない。時間も費用もかかる。
投稿者を特定するのに必要な情報はプロバイダーが持っているが、保存する期間について法律の定めはなく、3カ月程度で消去されることが多い。プロバイダーを突き止めるだけでも相当の時間がかかり、特定できないことは少なくない。
■国内に人権の専門機関創設を
――ヘイトスピーチ対策として今後必要なことは。
まずは啓発を強化する必要がある。特に首相や法相など影響力の強い公人による発信が重要だ。
一部の政治家が外国人によって治安が悪化しているかのような発言をしているが、外国人による犯罪率が日本人より高いというデータはないし、非正規滞在者は約7万人でピーク時の4分の1に減少している。間違いを是正する正確な情報発信とともに、国籍、民族などに関わりなく誰もが人として尊重され共に生きる社会を作ろうと呼び掛けてほしい。それが日本が加盟している人種差別撤廃条約が公的機関、政治家に求めていることだ。
同時に、悪意をもって意図的なヘイトスピーチを繰り返す人に対し、歯止めとなる法律が求められる。
弁護士や研究者らでつくる外国人人権法連絡会は今年6月、「人種差別撤廃法モデル案」を発表した。人種差別を明確に禁止した上で、政府から独立した人権の専門機関を創設し、差別的行為が繰り返された場合には同機関が指導・勧告、警告、命令の3段階の対応を行い、命令違反には刑事罰を科すことを盛り込んでいる。こうした実効性のある法制定を公明党に期待したい。
もろおか・やすこ 弁護士。「外国人人権法連絡会」事務局長。早稲田大学非常勤講師、国際人権法学会理事。編著書に「ヘイト・スピーチとは何か」「Q&Aヘイトスピーチ解消法」など。

公明新聞電子版 2025年10月31日付
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